りんごで人生変えるって、本当?

その瞬間、私の手に握られていたスマホの画面には、青森県板柳町の「林檎まるかじり塾」という文字が躍っていました。朝の電車の中で、なんとなく地方移住の記事を読んでいたときのこと。窓の外を流れる景色を見ながら、ふと「田舎で農業なんて無理だろうな」と思っていた矢先の出来事でした。

電車がガタゴトなる中、この不思議な名前の制度について調べ始めた私。まさか、これが私の人生観を変える入り口になるとは、その時は思いもしませんでした。

板柳町って、どこにあるの?

正直に言います。青森県板柳町なんて、私は全く知りませんでした。「いたやなぎ」って読むんですね。恥ずかしながら最初「ばんりゅう」と読んでしまって、一人で赤面しました。

板柳町公式サイトによると、人口は約12,000人ほどの小さな町。でもこの町、実はすごいんです。りんご生産量が青森県内でも屈指の規模で、特に「ふじ」の品質は全国トップクラス。

しかし、やっぱりというか、人口減少の波は容赦なく押し寄せています。2015年の人口13,935人が、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると2060年には3,719人まで減少する見込みなんです。これ、めちゃくちゃ深刻ですよね。

「うわぁ、これはヤバい」と思いながら調べていると、町の危機感がひしひしと伝わってきました。特に農業の担い手不足は深刻で、せっかく美味しいりんごを作る技術があるのに、それを継承する人がいない。なんという皮肉でしょうか。

「林檎まるかじり塾」の正体

そこで登場するのが、この「林檎まるかじり塾」なんです。正式名称は「りんご産業発展を担う人材育成のための青年農業者研修」という、めちゃくちゃ堅い名前。でも「まるかじり塾」って呼び方、なんか可愛くないですか?

この制度、板柳町の農業支援事業として、地元の若手農業者を対象に、約2年間にわたってりんご栽培の技術を徹底的に学べる研修制度なんです。

研修内容を見てびっくりしました。栽培基礎から始まって、剪定、摘果、病害虫駆除、接ぎ木、土壌管理、育種、そして経営や販売まで。これ、農業系の大学で学ぶような内容を、実際の現場で実践的に学べるってことですよね。

「いや、これガチで本格的じゃん」と思わず声に出しそうになりました。(出していませんが)

実績がすごい件

さらに驚いたのが実績。青森県庁の資料によると、令和2年度までに5期98名の若手農業者が修了しているんです。令和4年度も第6期塾生12名が修了予定とのこと。毎年10数名ずつ、着実に次世代の担い手を育てているんですね。

この数字、人口12,000人の町にとっては相当なインパクトだと思います。単純計算で、10年以上で約100名の農業者が専門的な研修を受けている。これって、町の農業界にとっては革命的な変化じゃないでしょうか。

支援制度の手厚さに驚愕

ここからが本当にすごいところ。板柳町は、国や県の制度と連携して、かなり手厚い支援を用意しているんです。

国の制度との連携

まず、農林水産省の新規就農支援制度。これは全国共通の制度ですが、就農準備資金として月12.5万円を最長2年間、経営開始資金として月12.5万円を最長3年間支給される制度です。

つまり、研修期間2年間は月12.5万円もらいながら学べて、その後独立して3年間も同じ金額をもらえる。合計5年間で750万円の支援です。これ、普通に考えてものすごい金額ですよね。

青森県の制度

青森県も新規就農者養成研修事業を実施していて、実践的な研修と座学を組み合わせた総合的な支援を行っています。県全体で新規就農を後押ししているんですね。

板柳町独自の取り組み

そして板柳町独自の支援がまた手厚い。町の支援制度を見ると、住宅賃貸料補助金(家賃月額×1/2、最高月額2万円)、研修資金補助金(対象経費の2/3、上限13万3千円)、農地貸借料補助金(上限10万円)など、かゆいところに手が届く支援制度を用意しています。

「えっ、住むところまでサポートしてくれるの?」と思わず二度見してしまいました。これって、移住者にとっては本当にありがたいですよね。農業を始めるだけでも大変なのに、住む場所まで心配しなくていいなんて。

実際に研修を受けるってどんな感じ?

これは私の想像なのですが、朝早くからりんご畑に向かう研修生の姿を思い浮かべてみました。

春は剪定作業。ベテラン農家の手つきを見ながら、「あー、そうやって枝を切るのか」と必死にメモを取る。でも実際にハサミを握ると、なかなかうまくいかない。「これで本当に美味しいりんごが育つのかな?」と不安になりながらも、指導者に「大丈夫、最初はみんなそんなもんだよ」と励まされる。

夏は摘果作業。小さなりんごの実を間引いて、大きくて美味しいりんごを育てるための重要な作業。でもどの実を残すか判断するのが本当に難しい。「この実とこの実、どっちがいいんだろう?」と迷いながらも、経験豊富な農家さんのアドバイスを受けて少しずつコツを覚えていく。

秋は収穫の季節。自分が手入れしたりんごが実際に収穫される瞬間は、きっと感動的でしょうね。「あ、このりんご、私が摘果したやつだ!」って思える瞬間があるはず。

経営面のサポートも充実

技術だけじゃなくて、経営や販売についても学べるのがこの制度のすごいところ。農業って、作物を育てるだけじゃダメなんですよね。ちゃんと売って、利益を出して、経営を持続させなければいけない。

最近は直売所での販売だけじゃなくて、インターネット販売やふるさと納税の返礼品など、売り方も多様化しています。こういう現代的な販売方法についても学べるなら、若い農業者にとってはかなり魅力的だと思います。

私も普段、ネットでりんごを買うことがあるのですが、生産者の顔が見える商品って安心感がありますよね。「この人が作ったりんごなら美味しいに違いない」って思えるし、ちょっと高くても買えちゃいます。

地方移住のリアル

ただ、正直に言うと、地方移住って簡単じゃないですよね。私も東京生まれ東京育ちなので、いきなり青森の小さな町で農業を始めるって言われても、「うーん、どうなんだろう?」って思っちゃいます。

でも、この制度の素晴らしいのは、段階的にサポートしてくれるところ。いきなり「はい、農業やって」じゃなくて、2年間かけてじっくり技術を身につけられる。その間は月12.5万円もらえるから、生活の心配もそれほどしなくていい。

それに、同期の研修生がいるっていうのも心強いですよね。一人で不安を抱えるんじゃなくて、「みんなで一緒に頑張ろう」っていう仲間意識が生まれそう。

移住のハードル

とはいえ、移住のハードルは確実にあります。家族がいる人は、配偶者や子どもの理解を得なければいけない。子どもがいれば学校のことも考えなければいけないし、両親の介護が必要だったりすると、なかなか踏み切れない。

私の友人でも「田舎暮らしに憧れはあるけど、現実的には難しいよね」って言う人が多いです。確かに、都市部での生活に慣れてしまうと、不便さを感じることも多いでしょうし。

でも、最近はリモートワークが普及したり、ネットショッピングが当たり前になったりして、地方でも意外と快適に暮らせるようになってきているのも事実。コロナ禍で「都市部の密集した生活よりも、自然豊かな環境で暮らしたい」と思う人も増えましたしね。

制度の課題と可能性

この制度、素晴らしいとは思うのですが、課題もあると思います。

一番大きいのは、やっぱり認知度の問題。私も今回調べるまで全然知らなかったし、きっと多くの人が知らないんじゃないでしょうか。いくら良い制度があっても、知られていなければ意味がない。

それから、農業って体力的にかなりハードな仕事。りんご栽培も例外じゃありません。剪定や収穫作業は重労働だし、天候に左右されるから精神的なストレスも大きい。「憧れだけで始めたけど、現実は厳しかった」となる人もいるでしょう。

でも、可能性は無限大

ただ、それを差し引いても、この制度の可能性は計り知れないと思います。

まず、食の安全への関心が高まっている今、安心・安全な農産物を作る技術を身につけられるのは大きな強み。板柳町のりんごは品質が高いことで有名だから、そのノウハウを学べるのは本当に貴重。

それから、SDGsへの関心も高まっていますよね。持続可能な農業への転換が求められている中で、環境に配慮した栽培技術を学べるのも魅力的。

さらに、インバウンド観光が回復すれば、外国人観光客向けの農業体験や、高品質な日本産りんごの輸出なんかも期待できます。農業って、実は国際的にも競争力のある産業なんです。

人生を変える挑戦?

結局のところ、この制度を利用するかどうかは、「人生をどう生きたいか」という根本的な問題だと思います。

都市部で安定した仕事を続けるのも一つの生き方。でも、「自分の手で何かを育てて、それを多くの人に喜んでもらいたい」という思いがあるなら、挑戦してみる価値は十分にあります。

私自身、この制度について調べていて、「もし今の仕事に行き詰まりを感じたら、こういう選択肢もあるんだな」と思うようになりました。必ずしも移住しなくても、週末農業から始めて、徐々にシフトしていくという方法もありますしね。

教訓:人生の可能性は思っているより広い

  • 情報収集の大切さ:知らない制度がたくさんある。積極的に調べることで新しい可能性が見えてくる
  • 段階的なチャレンジ:いきなり大きく環境を変えるのではなく、研修制度を活用して段階的に移行できる
  • 仲間の存在:一人では難しいことも、同じ目標を持つ仲間がいれば乗り越えられる
  • 地方創生への参加:個人の挑戦が地域全体の活性化につながる
  • 多様な生き方の受容:従来の価値観にとらわれず、自分らしい生き方を選択することの重要性

これからの農業、これからの生き方

林檎まるかじり塾という制度を通して見えてくるのは、地方と都市、伝統と革新、個人と地域といった、様々な対立軸を超えた新しい生き方の可能性です。

農業は確かに大変な仕事です。でも、自分が育てた作物を誰かが美味しそうに食べてくれる瞬間の喜びは、きっと何物にも代えがたいものでしょう。それに、最近は農業技術もどんどん進歩していて、ITを活用したスマート農業なんかも普及してきています。

板柳町の取り組みを見ていると、「地方だから何もない」じゃなくて、「地方だからこそできることがある」という発想の転換を感じます。都市部では絶対に体験できない、自然と向き合いながら生きていく豊かさがあるんじゃないでしょうか。

もちろん、すべての人にとって農業が最適な選択肢だとは思いません。でも、「そういう生き方もあるんだ」ということを知っているだけで、人生の選択肢は確実に広がります。

もしあなたが今の生活に何か物足りなさを感じているなら、一度板柳町のホームページを覗いてみてください。そこには、あなたが思ってもみなかった新しい人生のヒントが隠されているかもしれません。

りんごをまるかじりするように、人生も丸ごと味わい尽くしてみませんか?


参考リンク

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