売るはずの契約書で、もっと高い原野を買っていた|移住を考える家族が、親の土地の値段を町で聞く

公開日: 2026-10-03
原野商法の二次被害/土地の値段は、電話の向こうでなく町で聞く/① 電話の先にあった契約/② 国が引き取った土地/③ 土地のある町で聞く

国民生活センターが2018年1月25日に出した注意の呼びかけに、こんな一文があります※1。

「あらためて売買契約書を確認したところ、雑木林を約1,200万円で売り、原野を約1,600万円で購入する契約になっていた。」

相談したのは、東京都の60歳代の女性です。両親が昔400万円で買った雑木林を相続し、見知らぬ業者から「約5,000万円で買い取る」と何度も電話を受けて、約400万円を払い、契約書にサインしました。売るためのサインのはずが、契約書の上では、売る額より400万円高い原野を新しく買う話になっていました※1。

原野商法と聞いて私が思い浮かべていたのは、値上がりすると言って山林や原野を売りつける、1970年代ごろの古い話でした。

ところが、2018年に国民生活センターが「目立ちはじめています」と書き、2025年6月の政府広報が「目立っています」と書いたのは、その逆向きの電話です※2。昔の原野商法で土地を買った人や、その土地を相続した子のもとに、業者がその土地を高く買い取ると電話をかけてくる。国民生活センターは、売る契約と同時にもっと高い土地を買う契約を結ばせるこの形を、「売却勧誘-下取り」型と呼んでいます※3。

では、なぜ、売りつけられた土地が、数十年たって、買い取る話になって戻ってくるのか。

その答えは、電話を受ける側の気持ちにあります。長く持ち続けた土地を、子に負担を残さずに手放したい。業者はその気持ちにつけこんで勧誘している、と政府広報は見ています※4。電話の先で結ばれる契約を、国が引き取った土地の値段の決まり方と並べてみます。すると、電話で言われた値段を確かめに町へ向かう道筋が、移住を考える人の町歩きと重なって見えてきます。

この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、

という3つの柱を、相談の件数や窓口も交えて解説します。モノサシは一つだけ。その土地の値段を「誰が、どこから言っているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。

原野商法の二次被害|「買い取る」電話の先にあった、もっと高い原野の契約

一つ目の柱は、「買い取る」電話の先にあった契約です。

原野商法は、値上がりの見込みがほとんどない山林や原野を、将来高く売れると勧めて買わせる商法で、1970年代から1980年代にかけて被害が多発しました※4。

国民生活センターが2018年に分析した相談では、契約の中身を詳しく説明しないままお金を求め、実際には原野を売る契約と同時に新しい原野を買う契約を結ばせて、差額を払わせる形が目立っていました※1。冒頭の契約で払われた約400万円は、売る額と買う額の差と同じ額です。

相談の件数も、このころ急に増えていました。2017年度は12月末までで1,196件と、前の年の同じ時期の約1.8倍です。国民生活センターは、この報告の題の頭に「より深刻に」の言葉を置きました※3。

電話を受ける側の気持ちを語る相談も、届いています。2023年7月の国民生活センターの見守り情報には、80歳代の人が「高齢になり、子や孫に迷惑をかけたくないので売却したいと考えた矢先」に、売却を勧める電話を受けた相談が載りました※5。家族を思って土地を片づけようとする、その一歩目に電話が重なっています。

その後も、電話は止んでいません。2025年6月の政府広報によると、二次被害の相談は、ひところより減ったものの、いまも年200件から300件で推移しています※4。

1件あたりの平均の支払額も、2024年度に約258万円と再び増え、政府広報は「被害額は今もなお高止まり」と書いています※4。

もっと高い原野の契約/売るためのサイン。窓から雑木林を望む机に、書類とペン、電話を置いた場面。
図1 売るためのサインと原野の契約(※6)

相続土地国庫帰属制度|国が引き取った土地につく、もう一つの値段

二つ目の柱は、国が引き取った土地の値段です。

電話の業者が言う値段の隣に、国が土地を引き取るときの決まりを置いてみます。2023年4月27日、相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度が始まりました※7。

申請には土地一筆ごとに14,000円の審査手数料が要り、承認されると、10年分の管理費にあたる負担金(原則20万円)を納めます※7。手放す側がお金を払って、国に渡す仕組みです。この制度の数字は相続された土地についてのもので、原野商法で売られた土地とは別の話です。

それでも、国の手に渡った土地にどう値段がつくかは、土地の値段の決まり方をよく見せてくれます。財務省の2026年6月17日の資料によると、財務局などが引き受けた土地は2026年3月末時点で1,586件。売れる見込みのあるものは一般競争入札にかけてきましたが、「現時点で売却に至ったものはない」と書かれています※8。

そこで財務省は、隣の土地の持ち主などに売る場合の値段の付け方を示しました。測量などをしないまま引き渡す分として評価額から3割を引くのを標準にし、買いたいという申し出がないまま3か月が過ぎるごとに、さらに1割ずつ下げていく方針です※8。

国が引き取った土地/買いたいという申し出/3か月。低い柵で囲んだ草地と、遠くの雑木林を描いた場面。
図2 国が引き取った土地と買い手の申し出(※9)

そのあいだ国は、柵を立て、草を刈り、見回りをして土地を管理しています※10。国の手元の土地でも、値段は、買いたい人がいるかどうかを確かめながら探られています。冒頭の電話は、昔400万円で買われた雑木林を、業者のほうから高く買い取ると言ってきました。

原野商法の二次被害の確かめ方|お金を払う前に、土地のある町で聞く

三つ目の柱は、土地のある町での確かめ方です。

政府広報は、もう一つの相談を紹介しています。40年前に30坪と100坪の山林を買った男性のもとに、小さいほうの土地を欲しがっている人がいる、と不動産業者から電話が来ました※4。

男性は、売るための調査や整地の費用として、求められるまま合計190万円を払いました。今度は大きいほうの土地の調査費を求められたところで、子に話しています。「子に相談したところ、原野商法の二次被害に手口が似ているという。」※4

電話の外にいた家族が、話の形に気づいたことになります。買い取りの電話には耳を貸さず、契約せず、すぐにお金を払わない、と国民生活センターと政府広報は呼びかけています※2。では、値段はどこで確かめればいいのか。京都府は、「被害を防ぐには即答せず、所在地の役所で土地の用途や評価額などを調べる、地元の不動産業者に土地の売買状況や価格を問い合わせる、可能ならば現地を確認するなど、慎重に対応することが大切です」と書いています※11。

昔の原野商法では、売る側が「将来確実に値上がりする」などと、まだ来ない先の値段を語っていました※4。このモノサシで言えば、確かめるとは、値段を言う人を、電話の向こうから土地のある町へ移すことです。電話で言われた値段を、お金を払う前に、町で聞いた値段と並べてみる。

土地のある町で聞く/役所の評価額/地元の不動産業者。町の相談窓口で、家族が小さな後ろ姿で話を聞く場面。
図3 電話の値段と町の値段を並べる(※12)

家族で土地の話をする日は、思ったより近くに来ているかもしれません。2024年4月1日より前に相続したことを知った不動産は、2027年3月31日までに相続登記をする必要があります※13。次の正月やお盆の帰省で、親が祖父母から受け継いだまま名義を変えていない山の土地の話になる家族もあるでしょう。その席に、登記の書類と並べて、町で聞いた値段を置いておく。電話の値段を確かめる物差しは、それで手元にそろうはずです。

私の見立て|土地の値段は、電話の向こうでなく町で聞く

値段を言っていたのは誰だったか。3つの柱を、その問いで並べ直すと、こうなります。電話の業者が言った値段は約5,000万円で、契約書の上では、売る額より高い原野を買う話になっていました。国が引き取った土地では、渡す側が負担金を納め、国も買い手の申し出を待ちながら値を下げていきます。町の側の値段は、役所の評価額と、地元の不動産業者が知っている相場です。

私の見立てはこうです。お金を払う前に、サインの前に、土地のある町で値段を聞く。移住を考えて家や土地を見て回ることと、親の土地のある町へ値段を聞きに行くことは、行く町は違っても、役所や不動産業者を訪ねるところで重なります。

土地の値段/お金を払う前に/サインの前に。家族の机に書類とペンを置き、窓越しに町と雑木林を望む場面。
図4 お金を払う前に、町で値段を聞く(※11)

冒頭の雑木林の値段は、電話をかけてきた業者が言ったものでした。国に引き取りを申し出た土地には、隣の土地の持ち主から引き受けの申し出があったり、自治体や国の機関が使い道を決めたりして、申請が取り下げられたものがあります。有効活用の見込みが生じたとして取り下げられた土地は、2026年8月31日現在で586件です※14。

原野商法の二次被害を数字で見たい人へ|相談件数・支払額・相談先

相談の件数(2018年1月の国民生活センターの報告から)※3

年度 相談の件数
2007年度 488件
2010年度 446件
2013年度 1,032件
2016年度 1,076件
2017年度(12月末) 1,196件

1件あたりの平均の支払額(2025年6月の政府広報から)※4

年度 平均の支払額
2019年度 約487万円
2023年度 約110万円
2024年度 約258万円

相続した土地と国の制度

相談先(公式ページの表記から)

ほかの記事は記事の一覧にまとめてあります。相談の件数は資料ごとの時点のもので、登録が進むとあとから増えることがあります。手数料や期限などの制度は変わることがあるので、手続きの前に法務省などの現行ページで確かめてください。

出典リンク集

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