
「・西和賀の雪」。岩手県西和賀町が2026年1月に発表した、贈り物の内容の一項目です。商品名は「おうちで雪あかりセット」です※1。
雪の多い土地に移住するなら、まず雪を片づける暮らしを考えるものだと、私は思っていました。
ところが西和賀町では、本物の雪を菓子や小さなバケツと一緒に詰め、離れて暮らす人へ送っています。送るのは西和賀産業公社。受け取った家でも雪に小さな灯りをともせるように、道具まで入っています※1。
では、なぜ冬に積もる雪を贈り物にするのでしょうか。答えは、家で灯すための型を送り、受け取った家族から返事が届き、町の中では住民や学生が雪あかりを作り続けているからです。
自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、雪あかりを箱に詰める仕事、届いた雪への返事、町で雪を灯す人たち。この三本を柱にします。モノサシは一つだけ。「雪あかりを楽しむために、何を用意しているか」です。締めくくりに、私の見立てを置きます。
西和賀町の雪を箱に詰める|バケツをひっくり返すと、小さなかまくら
一つ目の柱は、町で作ってきた雪あかりを、家で作れる贈り物にする仕事です。始まりは1993年の旧湯田町。雪を使って冬を楽しみ、観光につなげようと始めた雪あかりは、合併後の2007年には旧沢内村の地域にも広がりました※2。
その町で、食べ物も町の外へ売り出す仕事が始まります。地域ブランド「ユキノチカラ」は2015年に始動しました。事業者の品を調べると、質のよいものを作っていても、少人数の経営では営業や広報まで十分に手が回らない。そこで商品の見せ方を工夫し、地域で一緒に販売や発信を進めました。2019年には、商品開発に取り組んだ町内13事業者が協議会を結成し、西和賀産業公社が事務局を担います※3。
「ユキノチカラ」で開発した品も増えました。2021年の時点で、事業者と進めた6年間の商品開発から、およそ45種類が生まれています。菓子などの品と一緒に、町を伝える「ユキノチカラ新聞」も発行していました。フィナンシェを載せたページには、店主や菓子が生まれた背景の話もあります※4。
品を町の外へ送る仕事には、思いがけない反応がありました。協議会の事務局を務める担当者が東京の友人や家族に町の商品を送ったとき、保冷剤代わりに雪を入れると、商品よりも雪の方が喜ばれたことがあったのです。それが、雪を贈る企画の種になりました※4。
雪あかりという冬の催しと、菓子などを売る仕事。その二つを同じ箱に入れたのが、2021年でした。新型コロナの影響で、その冬の雪あかりや雪合戦は中止になります。町に来てもらう代わりに、家にいながら雪あかりの気分を楽しんでもらおうと、セットを作りました。
発泡スチロールの箱に雪をたっぷり入れ、その中に菓子、LEDキャンドル、雪を詰めたバケツを収める。届いたら、バケツをひっくり返すだけでミニかまくらができます。
図1 ミニかまくら(※4)注文は思った以上に集まりました。同年2月2日の県政懇談会で、同じ担当者は、雪を詰めるところからミニかまくらの作り方までを話し、「思っていた以上に反響が大きく、多くのご注文をいただいているところです」と報告しています※4。
西和賀町から届いた雪に応える|毎年の贈り物になり、写真が返ってくる
図2 届いた雪への返事(※1)二つ目の柱は、雪の贈り物に応える人たちです。2021年2月2日、同じ懇談の終わりに、知事は、地元で催しができない分を通販で、というこの試みに「これがうまくいけば、コロナでなくても、いつでも毎年これをやるようになって伸びていけば非常にいいのではないかなと思います」と応えています※4。
その翌年、本物の雪を入れたセットは地域の名品の審査を通りました。2022年、「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー2021」のモノ部門で、最高賞の地方創生大賞を受賞。審査会では、雪を地域の財産として活用し、交流人口の増加につながっているという評価を受け、満場一致で選ばれました※1。
知事が毎年続くことを期待した冬から5年。2026年1月、町は「今年も販売開始」と発表しました。暮らしの妨げにもなる雪を、雪の降らない地域への「贈りモノ」にする。さらに、住民にとっても町の財産である「宝モノ」へと意識が変わることを目指す、と町は書きます。今のセットを「毎年心待ちにされる定番商品」と呼んでいます※1。
贈り物を待つ相手は、遠くで暮らす家族や、雪の降らない土地にいます。2026年の受付最終日は、2月7日でした。これまでに、里帰りできない家族へ贈る人、沖縄などの人から注文がありました。とくに子どものいる家庭に喜ばれ、お礼のメッセージや写真も届いています※1。
西和賀町で雪を灯す人たち|学生が「ただいま」と戻る大野地区
図3 町で雪を灯す(※2)三つ目の柱は、町で雪を灯す人たちです。送った雪に離れた家で灯りがともる一方、町の中では誰が作っているのでしょうか。毎年2月上旬、町内全域に灯されるロウソクは、およそ1万6000本です。各地区が趣向を凝らした雪のオブジェにも、灯りがともります※2。
その灯りを用意する地域の一つが、町の中央にある大野地区です。雪あかりの準備に合わせ、熊鍋や納豆汁などの郷土食、酒で訪れる人をもてなします。2024年からは早稲田大学のボランティアサークルの学生たちが加わり、地域の人と準備を進めてきました。学生たちは3泊4日で町に滞在し、地域の一員として取り組みます※2。
2025年2月8日、第33回の雪あかりには、町内561世帯と56企業・団体が参加しました。大野地区では、学生たちとの交流が重なっています。大野自治協議会の代表は、学生たちを孫のようだと話し、2年目の学生が「ただいま」とやってくるのが嬉しいと語っています※2。
戻ってきた学生の側にも、集落とのつながりが育っていました。2回目の参加となった学生リーダーは、「雪のフィールドワークは全国的にめずらしく参加者にも好評です。西和賀はどこかふるさとに帰ってきた感覚。集落の一員として地域の方と話すことが多くの学びになります」と話しています※2。
地域で準備する灯りの入口は、駅前にもあります。2026年の雪あかりは、ギフトの受付最終日と同じ2月7日、町内全域で開くと案内されました。点灯式は、JR北上線のほっとゆだ駅前で午後5時30分から。各地区の雪像やかまくらの窓にロウソクを灯し、午後10時まで楽しめるという案内です※5。
同じ2月7日、西和賀高校でも、生徒会執行部と1、2年生の有志が協力して雪あかりを作りました※6。
私の見立て|西和賀町は、雪を箱に詰め、灯す楽しみを届ける町
図4 灯す楽しみを届ける(※1)雪あかりを楽しむために、何を用意しているか。
送る箱には、家で雪を形にできる型を。
町外の家族からは、楽しんだ後のメッセージや写真を。
町の住民と学生は、一緒に作る灯りを。
私の見立てはこうです。西和賀町は、雪を箱に詰め、灯す楽しみを届ける町です。雪かきのいる暮らしと、雪に灯りをともす冬。その両方がある土地で、町外の家へは雪を届け、町内では一緒に作る学生を迎えています※2。
冒頭の贈り物に戻ると、町が案内した2026年のセットは、本物の雪と、雪あかりづくり用のバケツ1個を一緒に箱に入れるものでした※1。
西和賀町を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬の住まい
移住する前に、冬を過ごす家と働く場所も確かめたいところです。人口は、2020年の国勢調査で5,134人、2025年3月末時点で4,593人です※7。
| 指標 |
人数 |
| 人口・2020年 |
5,134人 |
| 人口・2025年3月末 |
4,593人 |
| 第三次産業・2020年 |
1,544人 |
働く人の構成は、2020年の国勢調査に基づく数字で、第一次産業19.8%、第二次産業22.0%、第三次産業58.2%です。第一次産業は農林業、第三次産業はサービス業などで、第三次産業が最も多くなっています。リンドウ、西わらび、乳製品など、地域の産品を生かしたブランドづくりも進んでいるようです※7。
人口と就業構成は、それぞれの時点の数字です。年ごとの変化は西和賀町の人口推移で、産業や生活施設は西和賀町の市区町村ページでも確認できます。
冬の家について、町の移住案内は、玄関から道路までの雪かきが必須で、住宅の状態によっては屋根の雪下ろしも必要だと説明しています。道路の除雪は早朝から行われます。住まいを探す際は、玄関から道路までの距離、敷地に雪を置く場所、屋根の雪をどう扱う家かまで、家主や町の窓口と確かめたいところです※8。
移る前は雪を見たことがあっても、雪国の暮らしは初めてだった人もいます。2024年6月に横浜市から夫婦で移住し、西和賀産業公社でふるさと納税の業務や発信に取り組む大竹雪菜さんは、2025年の新聞で、毎日の生活の中で町の環境を満喫していると語り、「家から徒歩数分で湖があるなんて驚きですよ。霧に包まれる朝夕の景色も新鮮です」と話しています※2。
住まいの費用には「西和賀町移住者住宅取得補助金」があります。2026年2月更新の案内で先に確かめたいのは、申請の順序。工事に着手する前、住宅を購入する前に、交付申請書を提出する必要があります。町は申請予定者に企画財政課への相談を求めています。制度は年度で変わるため、申請前に現行の案内を確かめてください※9。
要件を満たす申請者か配偶者が40歳未満の場合、基本額は新築40万円・中古20万円。両方が40歳以上の場合は新築20万円・中古10万円です。対象経費は、新築が土地代を除いて1,000万円以上、中古が土地代を含めて100万円以上。中学校卒業前などの子ども1人につき5万円、新築を町内施工業者と契約した場合は10万円の加算もあります※10。
対象となる移住者は、転入前の3年以内に町内の住所がなく、取得住宅の共有持分を2分の1以上持つ人など。親族からの購入やほかの補助を受けた取得などには対象外の条件があり、補助後5年以内の転居や売却等は取消し・返還の対象になります※10。
出典リンク集