寒川町のホームページに、町民無料体験会の持ち物の一覧があります。飲みもの、貸出のあるスケートボードとヘルメット、動きやすい服装とスニーカー。そして最後の四つ目に書かれているのは、「寒川町民である証明書等(免許証、保険証など)」です※1。
世界の第一線の選手が練習する場所には、まず自分がうまくならなければ、近づくことさえできない。私は、そう考えていました。
ところが、寒川町のページはこの施設を「オリンピックや世界大会メダリストが練習する施設」と紹介し、そこで月に2回程度、町民を対象にした無料体験会を開いています※1。持ち物のどこにも、成績や経験は出てきません。入口で確かめるのは、町民であることです。
では、なぜ世界選手の練習場が、町の子どもにここまで開かれているのか。
答えは、寒川町が一年じゅうトップアスリートの集う練習環境を重視し、移り住んだ選手のいる施設で、町の子どもが指導を受ける機会を設けているからです。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、
世界大会の数日間から、一年じゅうの練習場へ
練習のために越してきた選手たち
初めて乗る町民の入口と、次に計画している公園
という3つの柱を、暮らしの数字も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この町は「世界選手の練習場へ、初めて乗る町の子をどう入れているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。
寒川町のストリートスポーツ|世界大会の数日間から、365日の練習場へ
一つ目の柱は、世界大会の数日間から、一年じゅう練習できる場所へ、町が置くものを変えたことです。
練習場は、世界大会より先にできていました。2019年3月1日、町営プールの中に、BMXフラットランド専用の屋内パークが開きます。広報さむかわは「施設は本番用ステージで世界トップ選手も練習します。」と書き、続けて「初心者も体験可能」と案内しました※2。
この練習場を運営するために、2019年に寒川町へ来た人がいます。町のページの講師紹介は、BMXの田圓尚人さんを「2019年にFLAT PARK設立/運営の為に寒川町に。」と紹介しています※1。
同じ2019年の4月、さむかわ中央公園で、BMXフラットランド、スケートボード、ブレイキンの世界大会「ARK LEAGUE 2019 IN SAMUKAWA」が開かれました。国内外から延べ25,000人の観客が来て、町はこれを「ストリートスポーツの聖地化へ向けての第1歩」と書いています※3。
「聖地化」を計画に書く町は、寒川町だけではありません。福井県あわら市は施策の見出しに「北潟湖カヌーポロ競技場の聖地化」を置き、山梨県山中湖村は「自転車の聖地化を目指します」と書いています※4。聖地と呼ぶのはこれから、という書き方で、寒川町の「第1歩」もその一つでした。
その第1歩のあと、2020年3月の議会で、町は次の一歩を答えています。翌月に予定していたスケートボードの世界大会に触れたうえで、新しいBMXフラットパークを建てる理由を、「世界大会の開催時期であるこの5日間よりも1年間365日を通じてトップアスリートが集う環境整備こそが重要」と考えている、と述べました※5。数日間より365日、という言い分けは、この答弁の言葉です。トップアスリートが集う環境に、実際に誰が来たのか。
図1 一年じゅうの練習場(※5) 寒川町へ移住した選手たち|練習のために越してきた世界選手
二つ目の柱は、練習のために寒川町へ越してきた選手たちです。
冊子は、2019年の大会を契機に、スケートボードやBMXの世界トップレベルの選手が複数名、寒川町に移住したと書きます。全国から世界トップレベルを目指す選手やその家族なども、移り住む人が増えている、と続けます※6。
その人数は、2025年11月の資料に出てきます。スポーツ庁の「スポまち!表彰2025」で優良自治体に選ばれたとき、町が示したPRポイントの一つは「すでに世界チャンピオンが4人移住。日本チャンピオンも複数移住」でした※7。
図2 練習のために越してきた選手(※7) その選手たちのいる練習場を、冊子は別の言葉でも説明しています。近隣にもスケートボードパークはあるものの、「世界トップレベルの選手が常駐している施設はありません」と書き、選手が自ら設計したセクションで練習できると続けます※8。
2026年7月には、この練習場を拠点にする片桐悠選手が、中国で行われた「2026 ASIAN BMX FREESTYLE CHAMPIONSHIPS」のBMXフラットランドで優勝しました。高校卒業後に、よりよい練習環境を求めて町へ移ってきた選手で、同じパークで活躍する先輩たちの存在が「技術向上や競技への意欲に大きな刺激となっている」と語った、と広報さむかわ2026年9月号は伝えています※9。世界選手が日々練習する輪の外にいる町の人は、どこから入るのでしょうか。
寒川町民の無料体験会|初めて乗る日の受付
三つ目の柱は、初めて乗る町民が利用できる体験会と、次に計画している公園です。
今ある入口は、月に2回程度の町民無料体験会です。対象は寒川町民で、持ち物の最後には「寒川町民である証明書等」とあります。スケートボード、ヘルメット、プロテクターは、持っていなければ貸し出されます。数に限りがあり、足りなければ交代で使います※1。
講師紹介に並ぶ顔ぶれには、練習場の運営のために来たBMXの田圓尚人さんと、町へ移ってきた片桐悠さんがいます。担当は日によって変わりますが、移り住んだ選手が、町の子の最初の一回を受け持つ形です※1。
図3 町民の証明書で最初の一回(※1) 町に家族で越してきた子どもも、町民になれば、この列に並べるはずです。冊子が「世界トップレベルの選手による指導を受けることができる機会」と書く最初の一回に要るのは、飲みものと動きやすい服装とスニーカー、それに町民の証明書です※6。
では、町民はどれだけ使っているのか。2025年9月の決算特別委員会で、町民部長はストリートスポーツ普及推進事業の2024年度の実績として、来場者7,182人、うち町内の人が約1,600人、利用者数は町内が899人と答えています※10。
この数字に添えて、アンケートには「施設に満足した、寒川町に住んでみたいといった声」が上がったとも答えました。町民アンケートで、ストリートスポーツに興味がある人が「やってみたい」と選ぶ種目のうち、BMXとスケートボードの割合は、2020年度の20.5%から2024年度は27.7%に上がっています※10。
次に町が計画している場所は、一之宮五丁目の公園です。基本構想の新しい公園の計画では、スケートボードストリートの初心者と上級者では、練習に適したセクションが異なるとしています。初心者向けの設備では、上級者にとって世界トップレベルの練習にならないなどの課題があります。同じ空間で双方が共存するのは難しいが、屋外と屋内の競技スペースを使い、共存できる空間となるよう計画する、と続けています※11。
その公園の整備を案内する町のページは、「初心者からトップアスリートまでがスケートボードやBMXを楽しめる施設」にし、「町から世界に羽ばたく若者を育てていくための基盤をつくります」と書き、2027年度中の供用開始を目指して検討している、としています※12。2025年11月の資料も、この公園で目指すことに「誰もがストリートスポーツを体験できる場づくり」と「世界トップ選手への育成」を並べています※7。
私の見立て|寒川町は、世界選手の練習場に町民の入口を置く町
モノサシに戻して、世界選手の練習場へ初めて乗る町の子をどう入れているかを、一行ずつ確かめます。町が重視したのは、大会の日だけにとどまらない練習環境でした。そこへ越してきた選手には、先輩の存在から刺激を受けて練習する人がいます。町民には教わりながら始める体験会があり、次に整備する公園では初心者と上級者が共存できる場所を計画しています。体験会で確かめるのは、うまさでなく、町民であることです。
聖地にする、と計画に書く町は、あわら市や山中湖村にもありました。寒川町の場合、その中身は、町民の証明書を出せば開く扉でした。
私の見立てはこうです。寒川町は、世界選手の練習場に、町民の入口を置く町です。2026年10月に確かめた町の案内では、扉を開けると選手たちのトロフィーが並び、受付は入って右側のカウンターです。初めての人には、スタッフがやさしく教えてくれます※1。
図4 扉のトロフィーと右の受付(※1) 寒川町を数字で見たい人へ|人口・住まいと仕事・スポーツ指導の助成の要点
項目
数字
人口
48,702人(2026年1月)※13
世帯
22,761世帯(同)※13
2024年の転入
1,813人 ※14
2024年の転出
1,744人 ※15
町民無料体験会
月に2回程度 ※1
体験会の場所は寒川町倉見1385です。駐車場は5台で、町のページは公共交通機関の利用をすすめています※1。体験会に参加した人は、施設で売っているBMXやスケートボードを10パーセント割引で買えます。
2026年10月12日の「2026さむかわスポーツデイ」では、さむかわ中央公園の公園ステージでストリートスポーツ体験が予定されています。申し込みは要らず無料で、どなたでも参加できます※16。
家と仕事の相談の入口: 町の移住定住ポータルサイト「高座のこころ。」の「住む」には物件検索リンク、「働く」には創業支援と地域コンシェルジュの案内があります※17。
スポーツ指導者資格取得支援助成金(2025年4月1日施行の要綱): 住民基本台帳に記載のある人で、町内のスポーツ団体の構成員や町のスポーツ事業に携わる人などが対象です。スポーツを職業や職務としていないこと、町税の滞納がないことも条件に入ります。上限は、対象経費の合計と50,000円のいずれか低い額です(過去3年間に助成を受けた人は、経費の2分の1と25,000円のいずれか低い額)。移住の給付ではなく、指導者の資格を取る人への助成です※18。
人口の推移と将来の見通しは寒川町の人口ページ にまとめてあります。体験会のページは2024年11月の更新で、2026年10月8日に確かめました。月ごとの日程と担当講師は、施設のインスタグラムで確かめてください。新しい公園は、供用開始前の予定です。助成の金額と条件は年度で変わるので、申し込む前に町の現行のページで確かめてください。
出典リンク集
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