「今回はまず課の設置だけ」と答えた役場の、その後|新上五島町に移住して、製麺所で働く道のある暮らし

公開日: 2026-09-29
新上五島町/課の名前を先に掲げて、中身をあとから埋める町/① 麺の生い立ち/② 課の中身/③ 麺の仕事

新上五島町の役場には、「五島うどん課」があります。町のうどんのイベントのページの問い合わせ先には、「新上五島町役場 五島うどん課 五島うどん振興班」と書かれています※1。

役場の課というものは、仕事と予算が先に決まって、名前はあとから付くものだと私は思っていました。

ところが、この町の議会で2024年9月、「課だけつくって後は何をしたいのかが見えない」と問われた町の答えは、「今回はまず課の設置だけさせていただき、予算化については、きちんとどういったことができるかということを検討したい」でした※2。課の設置議案は9月11日に全会一致で可決され、10月1日付で課が置かれました。職員10人は当面、観光商工課との兼務です※3。名前が先で、中身はあと。この順番で生まれた課です。

では、なぜ、課の名前を先に掲げたのか。

町の答えの第一は、「うどん発祥の地ということをアピールしたい」でした※2。町の広報は、伝統をつないでいくためと書き、背景として、かつて30を超えた町内のうどん関連の事業所が25になり、後継者が課題になっていることを挙げています※4。課の中身はその後、作り手の会の事務局や島の外の市との協定で埋まり、外から来た人が麺の仕事を始める順は、組合のLINEやZoomの相談から始まります。

この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、

という3つの柱を、この島で暮らしを始める道筋としてたどります。モノサシは一つだけ。この町は「先に掲げた課の中身を、誰が埋めているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。

新上五島町の五島うどん課|遣唐使の麺の名前が、役場の課の名前になるまで

一つ目の柱は、課の名前になった麺の生い立ちです。

五島うどんは、遣唐使が島に伝えたとされる麺です。町長は町の特産品の筆頭に「遣唐使が島に伝えたとされる『五島うどん』」を挙げています※5。作り手の組合は、遣唐使船の寄港地だった上五島に製法が伝わったと考えられている、と説明します。長い時間をかけて作るため生産量が限られ、かつては「幻のうどん」と呼ばれていたそうです※6。

課の名前になる話は、役場の外から始まっていました。作り手の組合のページによれば、専門の部署を役場に置くよう求めていたのは、テレビ番組で五島うどんの名を全国に広めた製麺会社の前会長でした。経営を継いだ甥は、課ができたとき「ついに先代の夢がかなった」と言い、「五島うどん課には、販路拡大に向け、生産者をサポートしてほしい」と要望しました※7。

2024年9月の新聞によれば、地元の名産品の名前を自治体の部署名に使うのは珍しく、福島県喜多方市の「喜多方ラーメン課」のほかには見当たらない、と町長は説明しています※3。その喜多方ラーメン課は、市のページに主な業務内容を「喜多方ラーメンに関する情報発信」と書いています※8。麺の名前が付いた役場の課が、会津盆地と五島列島に一つずつあります。

2025年7月31日には、日本遺産「国境の島 壱岐・対馬・五島」の構成文化財に五島うどんが新たに認定され、文化庁のポータルサイトに「未指定(民俗技術)」として載りました※9。

麺の生い立ち/幻のうどん/五島うどん課。海と島影を窓越しに望む製麺作業場で、木の枠に細いうどんを干す場面。
図1 麺の名前が、課の名前になるまで(※10)

新上五島町の五島うどん課の中身|2024年の「見えない」から、2026年の「認知度向上」まで

二つ目の柱は、あとから埋まった課の中身です。

「まず課の設置だけ」と答えた町は、同じ議会で、長崎県五島手延うどん振興協議会など三つの団体と協議を重ねて肉づけしたい、とも述べています※2。このうち振興協議会は、五島地域で手延うどんを自ら生産する業者で組織する会で、事務局は五島うどん課の中に置かれています。会員は23の事業所です※11。

課の中身/23の事業所/協議会。海を望む製麺作業場の共同の机に、うどんの束と紙を置いた場面。
図2 課の中に置かれた作り手の協議会(※11)

組合のページの2026年夏・秋号には、課の職員が寄せた一文があります。「私たち五島うどん課の職員は、製麺事業者の皆さまと力を携え、その魅力を広く発信するとともに、歴史と伝統に培われたこの食文化を、確かなかたちで未来へと引き継いでまいります」※12。

島の外との相手もできました。2026年9月24日、新上五島町と大阪府の泉佐野市は「ふるさと逸品協定」を結びました。特産品を「逸品」と位置づけて連携する協定で、町のページの投稿担当は五島うどん課です※13。泉佐野市はこの協定を、お互いの地域の特産品をお互いの地域でPRする目的で2017年から結んでいて、一覧は2026年8月20日の竹富町までの23件です※14。

年月 課ができてから※15
2025年3月14日 りとワークを県が認定
2025年7月31日 日本遺産の構成文化財
2026年6月 議会で「認知度向上」
2026年9月24日 泉佐野市と逸品協定
2026年10月17日 うどんフェスタ予定

表1 課ができてからの動き(2026年9月時点)

そして2年足らずのち、2026年6月の議会で「課の設置によるこれまでの効果と課題はどのように捉えているか」と問われた町長は、こう答えました。「ネーミングのインパクトがあってか、メディアに取り上げてもらうことが増えたことにより、五島うどんの認知度向上につながっている」。振興協議会の事務局を担うことで「製麺事業者との連携が取りやすくなり」、イベントなどの事業が円滑に進んでいる、とも。一方で、五島うどん課は観光商工課の職員が兼務しており、「そのうち1名が専任に近い業務を行っている」と続け、「職員数の確保・増員を行い、独立した組織としたいがまだまだ課題が残っている」と述べました※16。

新上五島町で麺の仕事を始める順|LINEの相談から、面接、はたらき先、一年まで

三つ目の柱は、島で麺の仕事を始める順と、一年です。

外から来た人が麺の仕事に近づく入り口の一つは、2025年3月14日に長崎県の認定を受けた「新上五島町地域づくり事業協同組合」、通称「りとワーク」です※17。組合が職員として雇い、複数の仕事を組み合わせる「マルチワーク」で、はたらき先へ送り出す仕組みです。はたらき先の一覧には、「手延うどん製造」の2か所、五島手延うどん協同組合と太田製麺所のほか、ホテル、旅館、介護などが載っています。町長も2026年6月の議会で、製麺所の後継者不足への支援の一つにこの組合を挙げました※18。

製麺所の側も動いています。浜崎製麺所は新工場を建て、大手コンビニエンスストアなどへの納品も予定していると、2026年7月の町の広報が紹介しています※19。この製麺所では、外国人技能実習制度で2023年以降に来日したベトナムのスタッフ6人が働いています※20。町も、五島うどん課に地域おこし協力隊員を配置し、希望する製麺事業者のもとへ派遣する形での活用を検討していると、2026年6月の議会で答えました※18。

同じ仕組みの組合は、長崎県内では五島市が最初で、新上五島町は6つ目です※17。五島列島では、南の五島市に2021年、北の新上五島町に2025年、同じ形の組合ができました。

順は、こうです。まず、組合の公式LINEかZoomでのオンライン相談で、暮らしや仕事、待遇の話を聞きます。次に面接。組合は「一方的な質問形式ではなく対話形式のフランクな面接」と書き、内定のあと、島の外から移る人は移住の予定に合わせて就労の開始時期を調整すると案内しています。雇用は無期で、試用期間の6か月も本採用と同じ待遇、給与は「はたらき先による」です※21。島を先に見るなら、移住を考えている町外の人が使える有川郷の町のお試し住宅があり、原則14日間、期間中に約1時間の移住面談と空き家バンクの内見ができます※22。

麺の仕事を始める順/オンライン相談/手延うどん製造。製麺作業場を背景に、オンライン相談のための無地の画面のパソコンを置いた場面。
図3 島で麺の仕事を始める順(※23)

はたらき先に立ったあとの一年について、町内の製麺所の職人は、2019年に組合のページでこう話しています。うどんは「天候により、硬かったり柔らかかったりと日々、状態が異なる」と言い、乾燥中の麺どうしがくっついていないかを棒で確かめ、干している最中に切れないよう「湿度や温度を調べながら、工夫してやっている」そうです※24。

仕事を組み合わせる暮らしの実例も、町の地域づくり課が2024年にスマウトで紹介しています。大阪から若松島へ移り、漁の忙しさに合わせて町営病院の看護師のアルバイトの日数を変えながら、週3〜4日は漁師として海に出る人です※25。2026年7月30日の若者新規就労者激励会には、2025年6月以降に島内の事業所へ新規就労した人のうち16名が参加し、町の広報によれば「その後の懇親会では、自身についてや仕事について話し合うなど和気あいあいとした雰囲気の中で交流を深めました」※26。そして10月17日と18日、有川郷の五島うどんの里で五島うどんフェスタが開かれる予定で、稲庭・伊勢・讃岐のうどんの作り手が島に来ます※1。

私の見立て|新上五島町は、課の名前を先に掲げて、中身をあとから埋める町

3つの柱を、モノサシに戻して並べます。課の名前については、専門の部署を求めていた作り手の側の声があり、遣唐使の麺の名が課の名になり、課ができた翌年には日本遺産の肩書きが加わりました。課の中身については、協議会の事務局と泉佐野市との協定と、「認知度向上につながっている」という2026年の答えが埋めています。麺の仕事を始める順については、組合のLINEやZoomの相談から面接、はたらき先へと、外から来た人が自分で埋めていく形です。会津盆地の喜多方市にも、麺の名前が付いた課があります。

私の見立てはこうです。新上五島町は、課の名前を先に掲げて、中身をあとから埋める町です。2024年9月の「課だけつくって後は何をしたいのかが見えない」から、2年足らずのちの2026年6月の「認知度向上につながっている」まで。課の職員は観光商工課との兼務で、専任に近い業務を行っているのは1名です※16。課があとから埋めた中身の一つは、課の中に事務局を置く、23の事業所の協議会です※11。そして外から来た人が入る口の一つに、組合のはたらき先の一覧の、手延うどん製造の2か所があります※17。

中身をあとから埋める町/23の事業所/手延うどん製造の2か所。海に向かって戸が開いた製麺作業場に、うどんを干す枠と作業机がある場面。
図4 麺の仕事から見た町の中身(※27)

新上五島町を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬・助成金の要点

項目 数字
人口 16,231人(2026年)※28
世帯 9,193世帯(同)※28
漁業で働く人 8.8%(2020年)※29
製造業 5.0%(2020年)※29
医療・福祉 20.1%(2020年)※29
1月の日最低気温 4.6℃(有川)※30

移住と住まいの助成(2026年9月時点の町のページ)

人口の推移と年齢別の出入りは新上五島町の人口ページに、暮らしのデータは新上五島町のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に町の現行ページで確かめてください。人口と世帯は2026年1月1日、働く人の割合は2020年の国勢調査、気温は有川観測点の日最低気温の平年値(1991〜2020年)です。フェスタは2026年9月時点の予定です。

出典リンク集

本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。

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