
名古屋市には、子どもだけがかけられる電話番号があります。0120-874-994。市の子どもの権利相談室「なごもっか」は、この番号に「はなし、きくよ」と読みを添えています※1。
これだけ大きな市なら、子どもの悩みは親や先生を通して、大人の言葉になってから届くのだろう、と私は思っていました。
ところが、この相談室は、大人から相談が来ても、できるだけ子ども本人と話そうとします。2025年度は、新しい相談のうち285件で本人から話を聞いています。まだ学校に上がっていない子どもからの相談も、この年に初めて届きました※2。
では、なぜ、大人からの相談でも、子ども本人に話を聞きに行くのか。
答えは、この市が、子どもは権利の主体という考えから条例を見直し、その名前へ「の権利」を足した市だからです※3。意見を言う権利を守るには、まず本人の声を聴くことが大切だ、と相談室は説明しています※4。本人に尋ねる向きは、お年寄りの敬老パスにもあります。そして聞いた声は、子どもとお年寄りが過ごす一年の暮らしのほうへ返っていきます。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、
- 「はなし、きくよ」の相談室
- 年730回の敬老パス
- 子どもとお年寄りの一年
という3つの柱を、移住の助成金の要点も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この市は「聞いた声を、どこへ返しているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。
名古屋市の子どもの権利|「はなし、きくよ」の相談室と、条例に足された3文字
一つ目の柱は、「はなし、きくよ」の相談室です。
2008年にできた「なごや子ども条例」は、12年後の2020年4月、「なごや子どもの権利条例」になりました※3。子ども向けのページで、市は「名古屋市も大人も、子どもの権利を守ることを約束しています」と伝えています※5。
同じ2020年の1月、栄のオアシス21のすぐ横にあるビルの6階に、相談室「なごもっか」が開きました。市が置いた、行政から独立した第三者機関の窓口です。相談できるのは18歳未満の子どもで、高校に在学中なら18歳を超えていても構いません※6。相談室は子どもに、こう約束しています。「あなたが『いいよ』と言わないことは、おうちの人や先生に勝手に言うことはありません」。命や安全が守れないときだけは、警察や児童相談所と連携します。公衆電話からかけても、切ったあとにお金が戻ってきます※7。
図1 条例に足された「の権利」(※8)相談室に届いた声のその後を一つ。2023年1月、市立高校の生徒から申立てがありました。体育館で窓ガラスが落ちたのを受けて、校舎の改修と、改修や安全点検に生徒の意見を入れることなどを求めるものでした。そのあと体育館の一部が改修され、校舎の改修では生徒へのアンケートが行われて、その意見を生かすことになりました。相談室は申立てを終え、ほかの市立学校のことは自分から調べる形に切り替えて、2025年の秋には市立高校の生徒に学校の安全を尋ねています※9。
相談室には、市の機関に改善を「勧告」し、受けた側は60日以内に改善の状況を報告しなければならない、という強い権限があります。それでも2025年度の報告書の時点で、開設から勧告は一度も出していません。要請は1件です。権限で一方的に求めるより、対話で一緒に直すことを大事にしているから、と相談室は説明しています※10。相談室は、聞いた声を子どもにも返しています。毎年の活動を市長に報告し、2025年8月には児童館などで子ども向けの報告会も開きました※2。
子どもに直接尋ねる町は、県をまたいで並びます。秋田県八峰町は中学生全員に「八峰町に住みやすいと思いますか」と聞き、山形県遊佐町は大人と中高生の答えを同じページに並べています※11。
名古屋市のお年寄りと敬老パス|年730回の上限と、90分の数えかた
二つ目の柱は、年730回の敬老パスです。
名古屋市では、65歳の誕生日の約3か月前に、敬老パスの案内が届きます。申し込んで、所得に応じた年1,000円から5,000円の負担金を納めると、ゴールドのカードが郵送されてきます。市バスと地下鉄の全線などに、無料で乗れます※12。
このパスに上限ができたのは、2022年2月です。名鉄やJR東海、近鉄、名鉄バスなどにも使えるよう広げたのと同時に、1年に730回までという上限を置きました。それまで使っていた人の94%は年に730回以下だった、と市は説明しています※13。730は「1日2回乗車可能な回数」、毎日出かけて帰ってくる一往復ぶんです※14。
2024年2月からは、市バスどうし、市バスと地下鉄を90分以内に乗り継いだら、1回と数えるようになりました。行きの市バスに乗ってから90分以内に帰りの市バスに乗っても、1回です※15。
図2 敬老パスの上限と乗り継ぎ(※16)2025年の夏、市は65歳以上の市民3,000人を無作為に選んで、この上限をどう思うかを尋ね、1,679人が答えました。最も多いのは「適切である」の44.1%で、「多い」「やや多い」の19.4%が「少ない」「やや少ない」の9.9%を上回っています。上限ができて自分に影響があったかを聞くと、60.3%は「これまで通り利用することができている・影響はない」と答え、12.2%は「利用回数を気にするようになった」、9.2%は「短い距離であれば、徒歩や自転車で移動するようにしている」と答えました※14。答えた人のうち、パスを持って更新している1,137人の約1割(113人)は、「敬老パス制度がなかったら出かけていない」とも答えています※17。
お年寄りの乗車の記録から考える市は、ほかにもあります。神奈川県横浜市は2022〜2025年度の計画で、敬老パスをICカードにして得られる利用の記録も踏まえながら、制度を含めた移動の仕組みを考えていくとしています※18。
名古屋市の子どもとお年寄りの一年|放課後の校舎と、90分の往復
三つ目の柱は、子どもとお年寄りの一年です。
参加を申し込んだ小学生なら、放課後の居場所は校舎の中にもあります。「トワイライトスクール」では、学年の違う子と遊んだり、地域の人と交わったりして、授業のある日は午後6時まで過ごせます。参加費は無料で、保険関係費がかかります※19。もう一つの「トワイライトルーム」は午後5時まで無料で、午後7時まで預ける場合は月6,500円の選択事業になります※20。
たとえば、孫が校舎で遊んでいる夕方に、祖母が市バスで近くの用事を済ませ、90分以内に帰りのバスに乗る。敬老パスは、その往復を1回と数えます。子どもとお年寄りが同じ夕方をそれぞれの場所で過ごす一日が、この市では組み立てられるはずです。
図3 聞いた声を子どもにも返す(※21)一年を通すと、8月の平均最高気温は33.2℃、1月の平均最低気温は1.1℃です※22。暮らしの手間は、雪への備えより、夏の暑さへの備えのほうにかかるはずです。
移り住む家族への助成は、住まいと医療費が軸です。18歳以下の子がいる世帯が、市の定住促進住宅や市公社の賃貸住宅に新しく入ると、家賃の20%が最長10年減額されます※23。子どもの医療費は、18歳になった年度の末まで保険診療分の自己負担がなく、所得制限もありません※24。市が待っているのは、子どもを連れて移ってきて、市の賃貸に暮らしの足場を置く家族のようです。
移り住んだ人や出ていった人の声を聞く町もあります。宮崎県日向市は住んで5年未満の人に、山口県光市は2020年に、市から引っ越していった人に、「住みやすいか」を尋ねています※25。
私の見立て|名古屋市は、まず本人に聞きに行く市
3つの柱を、モノサシに戻して並べます。子どもの声は、大人からの相談でも本人から聞こうとし、体育館の改修の話し合いと子ども向けの報告会へ返している。お年寄りには、上限の730回をどう思うかを本人に尋ね、答えを公表した。一年の暮らしでは、午後6時までの放課後の校舎と、90分以内の往復を1回と数える敬老パスがあります。
八峰町や遊佐町は子どもに、日向市や光市は移り住んだ人や出ていった人に尋ね、横浜市は乗車の記録も踏まえて考えるとしています。
私の見立てはこうです。名古屋市は、まず本人に聞きに行く市です。大人からの相談でも子ども本人と話す、と知るまで、私は子どもの声は大人を通して届くものだと決めてかかっていました。勧告の権限を持ちながら、使わずに話し合いで直す相談室は、子どもにこう約束しています。「あなたが『いいよ』と言わないことは、おうちの人や先生に勝手に言うことはありません」※7。
図4 本人の声を聞いて話し合う(※7)名古屋市を数字で見たい人へ|人口・仕事・気候・助成金の要点
| 項目 |
数字 |
| 人口 |
2,310,721人(2026年1月1日)※26 |
| 世帯 |
1,208,480世帯(同)※26 |
| 昼の人口 |
夜の111.2%(2020年)※27 |
| 第3次産業で働く人 |
76.8%(2020年)※28 |
| 待機児童ゼロ |
12年連続(2025年4月)※29 |
| 8月の平均最高 |
33.2℃(名古屋観測点)※22 |
| 1月の平均最低 |
1.1℃(同)※22 |
- 2024年の他の市区町村との出入りは、転入147,291人・転出142,776人でした※30
- 名古屋市に住んで働く人は、多い順に卸売・小売17.8%、製造業15.3%、医療・福祉12.2%(2020年)※28
- なごもっか: 子ども専用0120-874-994、大人用052-211-8640。月曜11〜19時、火・木・金曜11〜21時、土曜11〜17時(受付は終了の30分前まで。水曜・祝日・年末年始は休み)。2025年度の新しい相談は444件、うち子ども本人からが259件でした※2
移住と住まいの助成(2026年9月時点の市のページ)
- 移住支援補助金: 直前10年のうち通算5年以上、東京23区に住むか、東京圏から23区へ通勤していた人(直前に連続1年以上)が対象。市内の対象求人への就業(転入時50歳以下)、専門人材としての就業、県の創業支援を受けた起業、関係人口の条件(名古屋市に住んだことがあり、市内の農業の担い手のもとで働くか、新しく農業を始めて市の認定を受けた人)のいずれか。単身60万円・2人以上の世帯100万円、18歳未満の子1人につき100万円を加算。移住後1年以内の申請と、5年以上住む意思が要ります。移住元の仕事を続けるテレワークは対象外。2026年度の申請期限は12月28日で、予算に達すると早く締め切ることがあります※31
- 子育て世帯の家賃: 定住促進住宅・市公社賃貸住宅(市公社は40平方メートル以上)に新たに入居すると家賃20%減額を最長10年。セーフティネット住宅の子育て世帯専用住戸は、所得に応じて月4万円を上限に最長6年※23
- 子ども医療費: 18歳になった年度末まで保険診療分の自己負担なし・所得制限なし(入院時の食費や差額ベッド代などは対象外)※24
- 敬老パス: 65歳以上・負担金は所得に応じて年1,000円・3,000円・5,000円・年730回まで。名鉄・JR東海・近鉄の市内区間などは、いったん払った運賃があとで口座に戻ります※12
暮らしのデータは名古屋市のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に市の現行ページで確かめてください。本文の数字には、わかる範囲で年を添えています。
出典リンク集
本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。