
新潟県見附市の移住サイトに、地元へ戻った人と、戻るよう声をかけた友だちの話が載っています。友だちは以前から何度か「帰っておいでよ」と伝えていたそうです。市の制度を知ってからのことは、インタビューに、こうあります。「『帰っておいで』よりも『こういう制度があるよ』の方が声を掛けやすくなって良かったです。」※1
地元に戻るかどうかは、本人と家族が決めること。友だちの「帰っておいでよ」は、飲み会がお開きになるときのあいさつに近い。私はそう思い込んでいました。
ところが見附市では、そのひと言を口にした友だちのほうも、市に申請書を出します。市民の声かけがきっかけで県外から人が移り住むと、移り住んだ人と、声をかけた市民の両方が、市から同じ額を受け取れる仕組みがあるからです※2。
では、この市で「帰っておいで」のひと言は、どこで言われているのか。
最初の一件は、30歳の同窓会の席での再会から生まれました。市の決まりは、そのひと言を言ってよい相手を、家族の外へ広く書いています。そして戻った人の話をたどると、飲み屋のテーブルに置かれたチラシやポップが、何度か言ってきた言葉を言い直すきっかけになっていました。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、
- 声をかけてよい相手を書いた決まり
- 飲み屋のテーブルから始まったUターン
- 同窓会の席と、戻ってからの暮らし
という3つの柱を、移り住んだ人の声も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この市では「『帰っておいで』のひと言が、どこで言われているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。
見附市で「帰っておいで」と言える相手|遠距離の恋人は入り、おじ・おばは入らない
一つ目の柱は、声をかけてよい相手を書いた決まりです。
市が出している「よくある質問」には、こんなやりとりがあります。「遠距離恋愛中の恋人からの紹介は対象となりますか。」「対象となります。」※3
同じ紙は、いとこからの紹介も対象になると答えています。外れるのは3親等以内の親族からの紹介で、市のページは、おじやおばが甥や姪に声をかける場合を例に挙げています※2。家族の声は、制度がなくても届きます。市が後押ししたいのは、その外側にいる友だちの声です。ねらいを、市は「市民の皆様自らが広報部長となって知人友人へ声掛けしていただき」と書いています※3。申請は2人そろって出し、どちらかが出さなければ、どちらも受け取れない作りです※2。
図1 声をかけてよい相手と、二人そろっての申請(※4)この仕組みは、市長が2025年3月の議会で新しく設けると述べ、「市民と力を合わせてPRに取り組んでいきます」と続けたものです※5。決まりは同じ年の6月1日から動いています※6。
地元を出た若い人との縁を切らさない工夫は、同じ新潟県の燕市にも見られます。燕市は、首都圏に住む大学生などとの交流に「つばめいと」と名前を付け、その仲間から地元へ戻った人の数を、計画の目標に置いています※7。
見附市へのUターンの実例|飲食店のチラシ、居酒屋のポップ、電話とChatGPT
二つ目の柱は、飲み屋のテーブルから始まったUターンです。
移住サイトには、この仕組みで戻った人の話が3組載っています。1組目の2人は、親同士も同級生です。声をかけた人は市内の飲食店で働いていて、店に置かれたチラシで制度を知りました。秋、帰ってきていた友だちと飲みに行ったときに「そういえば、こんな制度があったな」と思い出して伝えた、と話しています※1。
話はそこで終わりませんでした。年末年始、チラシのあったその店に友人たちが集まると、Uターンが話題になり、こんな声も出たそうです。「『俺もUターンしたら支援金もらえるかな?』なんて話も出ましたよ」※1。
2組目は、保育園から中学校までの同級生です。富山市で暮らしていた人と、見附に住む友だちは、市内の居酒屋で見た宣伝のポップで制度を知り、それからずっと話題にしていました。記事は、そのお店の写真に「唐揚げが美味しい」と添えています※8。店にポップを置くのは、市のやり方でもあります。2026年3月の予算の審議で、担当の課長は、飲食店のテーブルの上にポップを置くなどして、市民に知ってもらおうとしていると答えました※9。
3組目は、小学校から高校までの同級生で、小学生のころから2人とも野球部でした。声をかけた人は3〜4年前から「見附に帰ってくれば良いじゃん」と伝え続けてきました。ある日の電話で、いつものように「帰ってきなよ」と言うと、友だちが「ちょっと本当に帰ろうかな」と答えます。帰ってくるためのお金の助けを、代わりに調べたのは声をかけた側でした。「ChatGPTに聞いてみたら、この『つながり移住支援金』がクリーンヒットしました」※10。
図2 飲み屋のテーブルから、友だちへの声かけへ(※11)戻る気持ちを、出ていった人の側に尋ねる町もあります。奈良県の河合町は、町を出た人へのアンケートに「機会があれば、河合町にもう一度戻って住みたいか」という問いを、別に立てています※12。
見附市で暮らし始めてから|同窓会のLINEと、駅まで歩いて15分の家
三つ目の柱は、同窓会の席と、戻ってからの暮らしです。
野球部の友だちの声で戻った人は、2026年の夏の同窓会の打ち合わせに顔を出しました。そして「気付けば幹事の一員になっていました」と話しています※10。
市は、30歳の大同窓会が一回で終わらないように、ひと手間をかけています。実行委員会に同窓会用のLINEのグループを立ち上げてもらうよう頼み、会が終わったあとも参加者どうしが連絡を取り合えるように働きかけている、と2025年12月の議会で課長は答えました※13。同じ答弁は、大同窓会のあと「結婚につながった方や同窓会後に集まる機会ができた方」もいると続けています※13。
同窓会の輪は、30歳の会の外にも広がりつつあります。市は2026年5月、県外に住む人を4人以上含む同窓会の費用の一部を補助する制度を設けました※14。その予算を審議した3月の委員会では、委員が「これは同窓会と書いてありますけれども、同級会は該当するのですか」と尋ね、課長は「同じ年で、学校にこだわらずやったほうが目的達成につながるのではないのかなと思っています」と答えています※9。決まりは、県内の同じ園や学校にいたことを条件に残したうえで、学年でも、クラスでも、部活動の仲間の集まりでもよいとしました※14。30歳の同窓会のほうは、市のいまの決まりに、会の中で、市が示すマニュアルに沿って市の取り組みを紹介することまで書かれています※15。
戻った人の言葉には、友だちとの距離が出てきます。2組目の、富山市から戻った人は、帰省のたびに友人と食事に行く流れだったと振り返り、こう続けています。「気が向いた時に気軽に誘える距離に戻れるのも決め手になったと思います。」声をかけた友だちとは、ご飯のほかに、市のコミュニティ銭湯「ほっとぴあ」へ一緒に行くこともあったそうです※8。
図3 戻ってからの暮らしと、駅までの距離(※16)市のお試し移住住宅は美里町にあり、JR見附駅まで歩いて15分です。市はその案内に、「県内最小の面積の市だから、生活(買い物、病院、公共施設など)は車で10分以内で完結」と書いています※16。働く場では、市は繊維を代表の産業に挙げ、ニットの業界は「MITSUKE KNIT」というブランドに取り組んでいます※17。
見附に縁のない人の入り口もあります。恋人やSNSでつながる人も声をかけてよい相手に入り、刈谷田川の両岸で畳八畳分の大凧を引き合う今町・中之島大凧合戦は、2026年8月の市の案内によると「誰でも組員になることができ、県外から参加している人もいます」※18。
帰ってきた人の気持ちを書き留めた町もあります。群馬県の草津町は、町を出た人へのアンケートの意見のまとめに、「草津町に帰るたびに感じる新しい発見があり、楽しい」という一文を載せています※19。
私の見立て|見附市は、「帰っておいで」を言いやすくした市
ひと言が出た場所を、順に振り返ります。決まりの上では、市は家族の外にいる声を後押ししています。飲み屋のテーブルでは、店のチラシやポップが話の種になり、電話の向こうの友だちの気持ちが動きました。同窓会の席には、会のあともLINEでつながるよう市が手を添え、大同窓会からは結婚につながった人も出ています。燕市は交流の仲間に名前を付け、河合町は出ていった人に戻る気持ちを尋ね、草津町は帰るたびの発見を書き留めています。
図4 案内のはがきから、同窓会の再会へ(※13)私の見立てはこうです。見附市は、「帰っておいで」を言いやすくした市です。市は、成人式から10年たった人たちに30歳の同窓会を呼びかけ、実家も引っ越していれば、分かる範囲の住所へ案内のはがきを送っています※13。2025年12月10日の議会で、市の課長は、この仕組みの最初の利用があったと答えました。その人が見附の仲間とふたたびつながったのは、30歳の大同窓会の席でした※13。
見附市を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬・移住の支えの要点
| 項目 |
数字 |
| 人口 |
37,459人(2026年)※20 |
| 世帯 |
15,317世帯(同)※20 |
| 製造業で働く人 |
26.3%(2020年)※21 |
| 卸売・小売業 |
17.1%(2020年)※21 |
| 医療・福祉 |
12.2%(2020年)※21 |
| 1月の日最低気温 |
−0.5℃(三条)※22 |
| 8月の日最高気温 |
30.8℃(三条)※22 |
- 2025年の1年は、転入707人(国内653・国外54)、転出893人(国内835・国外58)、生まれた人173人、亡くなった人575人でした※20
移住の支え(2026年9月時点の市のページ)
- つながり移住支援金: 声をかけた市民と移り住んだ人に、それぞれ10万円。声をかける人は市に1年以上住む18歳以上、移り住む人は転入の直前に連続して1年以上県外に住んでいた18〜45歳。3親等以内の親族や営利に関わる紹介は対象外で、進学・新卒就職・転勤による移住も対象外です(自分の意思で移り住みテレワークを続ける場合は対象)。紹介者・移住希望者・市職員の三者面談と、住まいが決まる前の移住体験ツアーに参加し、転入から90日以内に2人とも申請します。3年たたずに転出すると、2人とも全額を返します※23
- つながり見附同窓会開催補助金: 県外に住む出席者1人5,000円と県内に住む出席者1人1,000円の合計で、上限5万円。市内で開く、新潟県内の同じ園や学校(廃止になった所を含む)にいた人の集まりで、22〜45歳の6人以上(市内に住む人2人以上・県外に住む人4人以上)が出席し、市外の出席者は「見附さぽーた」に登録します。2026年5月13日から2027年3月21日までに開く会が対象で、幹事が開催の5開庁日前までに申請します※14
- 見附市移住支援金: 移る直前の10年のうち通算5年以上かつ直近1年、東京23区に住むか、東京圏から23区へ通勤していた人が対象で、単身60万円、世帯100万円、18歳未満の子を連れて移ると子1人につき100万円の加算※24。東京圏から移る子育て世帯には、別に世帯50万円の支援金があります(併用はできません)※25
- 住まい: 新築・建売住宅の取得に最大60万円、中古住宅の取得に最大40万円、市の分譲地「ウエルネスタウンみつけ」で新築すると最大770万円※25
- 相談と体験: お試し移住住宅は無料で4〜14日泊まれ、県外に住み、45歳以下の人が1人以上いることが条件です。視察の交通費は半額(1人上限1万円)を補助します※26。首都圏の交流会「東京みつけデー」は2026年11月14日に東京・浜松町で開く予定で、見附にゆかりのない人も参加できると市は案内しています※27
人口の推移と年齢別の出入りは見附市の人口ページに、暮らしのデータは見附市のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に市の現行ページで確かめてください。人口と世帯は2026年1月1日の住民基本台帳、働く人の割合は2020年の国勢調査、気温は見附市から約13km離れた三条観測点の平年値(1991〜2020年)です。移住サイトの利用者の声は、2026年9月時点で載っている3組です。
出典リンク集
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