
「白砂の道に続く竹ほうきの筋」。沖縄県渡名喜村が、2003年度の農村アメニティ・コンクールで賞を受けたときのスローガンです※1。
朝の掃除は、子どもが自分で片づける習慣を身につける、学校の中の話。私は、そこまでのものと考えていました。
ところが、渡名喜村で子どもたちが掃くのは、集落の白砂の道です※1。その「朝起き会」には、児童生徒会だけでなく、PTA、村の教育委員会、老人会も加わってきました※2。
では、なぜ村は、子どもの朝の掃除に学校の外の人の手も求めるのでしょうか。
答えは、この島の子どもが、高校進学と同時に親元を離れるからです。島にいる間の朝を、学校と地域の大人で受け持ち、訪れた人にも竹ぼうきを渡し、住む人は道と屋敷林の手入れまで引き受けてきました。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、子どもと地域が掃く朝、来た人も一緒に掃く朝、住む人の一年の手入れという3つの柱を、仕事と住まいの要点も交えて解説します。モノサシは一つだけ。白砂の道とその周りを、誰がどんな手で手入れしているか。締めくくりに、私の見立てを置きます。
渡名喜村の朝起き会|学校の体操が、集落の道へ続く
一つ目の柱は、子どもと地域が掃く朝です。1919年から94年間続いた学校と地域の連携は、2013年3月7日、文部科学大臣表彰を受けました※2。
表彰されたのは、学校と地域が一緒に続けてきた「早寝早起き朝ごはん」運動でした。朝起き会をつくるのは児童生徒会、PTA、村教育委員会、老人会など。幼児から中学生までが一緒に体操し、走り、通学路を掃いていました※2。
通学路は、赤瓦の家と石垣の間を通る白砂の道です。集落では屋敷地を道路より低く下げ、石垣で囲み、その内側にフクギを植えて風から家を守ってきました。歩く道のほうが、住まいの地面より高いのです。石垣、屋敷を囲む木々、赤瓦の屋根が一体になった町並みが、国の重要伝統的建造物群保存地区として残されています※3。
この道を掃く朝には、島を出たあとの暮らしへの備えもありました。高校進学と同時に親元を離れる子に、基本的な生活習慣や責任感、忍耐力を育てようと受け継いできた、と琉球新報は伝えています。2013年の報道では、月・水・金の朝は体操と通学路の清掃、中学生は火・木にも3,000メートル走などに取り組んでいました※2。
その朝を支えた地域へ、子どもからの言葉も返っています。授賞式に生徒を代表して出た中学生は、翌日、県の教育庁へ報告に行き、「受賞できたのは島のみんなのおかげ」と喜びを語りました※2。
図1 子どもと地域が掃く朝(※2)渡名喜村を訪れた人の朝|帰る前に、同じ道を掃く
二つ目の柱は、来た人も一緒に掃く朝です。2014年9月、本部町の上本部小学校から、児童、校長、教員を含む28人が渡名喜村へ来ました※4。
2泊3日の交流で、一行はお年寄りから島の暮らしを聞き、ニンジンゼリー作りを体験しました。翌日は島を歩き、渡名喜小学校でドッジボールやレクリエーションをして遊びました。そして帰る日の朝には、朝起き会に参加し、村内清掃も体験しました※4。
参加した児童の一人は、島の友達と楽しい思い出ができ、大人になったらまた訪れたいと話しました。迎えた渡名喜小の4年生も、たくさんの友達とドッジボールができたことを喜んだ、と琉球新報は伝えています※4。
子どもの交流に続いて、大人が旅行で来て加わった朝もあります。2023年4月3日掲載の、沖縄の離島の体験予約サイト「しまたび」の参加報告です。参加者が訪れたのは、旅行最終日の金曜日。朝6時半はまだ暗く、足元に明かりのある道を歩いて、学校へ向かいました※5。
学校では、まずラジオ体操で体を動かし、それぞれのペースでグラウンドを走りました。島の子どもたちは早朝から元気いっぱい。報告を書いた人は、息を切らしながらグラウンドを1周しました※5。
そのあとに手にしたのは、集落の各地に置かれた竹ぼうきです。およそ20分、声をかけ合って白砂の道を掃きました。園児も参加し、島の年長者が掃き方を教えていました※5。
見知らぬ大人たちを、子どもたちは初め不思議そうに見ていましたが、途中からたくさん話しかけるようになりました。年長者は「参加してくれてうれしいさぁ」と歓迎しました※5。
図2 来た人も一緒に掃く朝(※5)渡名喜村に住む人の手入れ|朝の道から、旧正月前のフクギへ
三つ目の柱は、住む人の一年の手入れです。旅行で参加した人には帰る日の朝だった清掃が、住む人の中には、週ごとの日課にしている人もいます。2026年1月27日の村公式取材では、2015年に埼玉県から移住した親が、役場で働きながら子育てする暮らしを語っています。月・水・金は朝6時半に学校のグラウンドで体操し、そのあと集落をみんなで掃く一日だといいます※6。
移住してこの朝に加わるなら、学校へ通う前や仕事を始める前に、近所の人と同じ道に立つことになりそうです。週ごとの清掃に加え、家を囲むフクギには、年ごとの手入れもあります。2026年2月7日、住民が集まって、旧正月前の枝の手入れをしました※7。
旧正月が近づくと、島には里帰りする人も増えます。新しい年を気持ちよく迎えるための作業を進める中心は、西字、東字、南字の3地区それぞれの実行委員会です。役場は道具や車を貸して支えます※7。
家の周りのフクギは、外側の石垣と内側の石垣の間に植えられた屋敷林で、風を防ぐほかに、火が広がるのを防ぐ役割も担います※3。手入れにも、残す加減があります。大きな木は幹から切らず、小枝を落とすまで。枝を切る人、集める人、車に積む人、集積場所へ運ぶ人に分かれて作業が進みました※7。
車に積むときにも、次の人の仕事が待っています。葉の側を奥へ、枝の側を手前へ向けると、降ろしやすくなります。集めた枝葉は乾燥させ、チップにし、最後は肥料として島の土へ戻す扱いです※7。
この日のまとまった作業のほかにも、普段は住民が自宅の周りを少しずつ手入れしています。個人では難しい高い所の作業は、みんなで助け合っています。作業を終えると、きれいになって明るくなったことを喜ぶ声も上がりました※7。
図3 住む人の一年の手入れ(※7)私の見立て|渡名喜村は、朝から屋敷林まで村民の手を求める村
白砂の道を手入れする手は、島を出る前の子どもの生活習慣を育てる地域の手でした。島外から来た人が持てる竹ぼうきもありました。家を守る木々には、切る人と運ぶ人が分け合う仕事がありました。
2020年、村は朝起き会の継続に「村民の参加者30名」という目標を置きました。村民による運営と積極的な参加を呼びかけ、道路の補修や屋敷林の枝の手入れも、住民自ら行うことを目指しています※8。私の見立てはこうです。渡名喜村は、子どもの朝から屋敷林まで、村民の手を求める村です。
2026年2月7日の枝の手入れのあとには、「一人でやると大変だけど、みんなでやると楽しいさ。」という声がありました※7。週ごとの朝には、体操を終えた人たちが、白砂の道を掃いています※6。
図4 村民の手を求める村(※8)渡名喜村を数字で見たい人へ|人口・仕事・住まい・子育ての要点
暮らしの規模をつかむ数字です。村が2025年6月の採用説明会で使った資料には、人口277人、幼稚園1施設、小中学校1校、診療所1施設とあります※9。
| 項目 |
村の説明資料の数字 |
| 人口 |
277人※9 |
| 幼稚園 |
1施設※9 |
| 小中学校 |
1校※9 |
| 診療所 |
1施設※9 |
人口は2025年4月末、施設は2025年6月の説明資料の掲載値です。島内に高校がないことは、2026年の子育て取材でも挙げられています※6。朝起き会への村民30人の参加は、2020年に置かれた目標です※8。
住まいを探すときの要点です。
- 村は移住者向けの多用途住宅を用意しています。2025年6月の説明資料では、家賃は月15,000円、入居は10年間。役場に勤務する人が利用する場合は家族との同居が必要で、単身では利用できないと案内しています※9。
- 移住者用住宅に空きがある場合はその住宅を、空きがない場合には民間の空き家を紹介できるよう、村が情報を集めています。民間の空き家の家賃は月3万円程度からで、物件によって異なるという案内です※9。
仕事と、住む前に島を知る入口です。
- 2027年度の地域おこし協力隊は、石油販売所、観光協会、島おこし、空き家対策の4分野で募集しています。受付は2026年9月1日から2027年1月31日まで。申込書に加え、応募動機と採用後の活動について2,000文字程度のレポートなどを提出します。受け持つ業務や応募条件は、分野ごとの募集要項で確かめられます※10。
- 業務の中身も具体的です。石油販売所では給油やガスの配達・検針、観光協会では情報発信、空き家の活用や民泊の企画・運営を担います。島おこしの配属先は株式会社Oneとなきで、特産品や飲食店、ホテルなどの仕事。空き家対策は役場総務課で、空き家の把握や活用、移住・定住に関わる業務です※10。
- 村の採用ページでは、移住や役場の仕事を聞く30分程度のオンライン個別説明会を随時受け付けています。現地での役場体験プログラムにも、集落や住宅の視察、職員との座談会、農作業などを通した住民との交流が入っています。日程や関心に合わせて相談する仕組みです※11。
船での移動と、子育ての支援です。
- 2025年6月の村の案内では、那覇の泊港からフェリーで約2時間。4〜10月は金曜日に那覇へ戻る午後便もあるとしています。予約する日の運航と帰りの便は、船会社の現行ダイヤで確かめてください※9。
- 同じ資料には、離島住民の旅客運賃・自動車航送運賃の補助、妊婦の通院交通費・宿泊費助成、子どもの医療費助成、出産・入学祝い金、幼小中学校の給食費無料が並びます。対象や申請の時期は、利用する支援ごとに村へ相談してください※9。
暮らしの情報は渡名喜村のページにまとめてあります。住宅の家賃や入居条件、支援の内容は年度で変わるため、移住や申請の前に村の現行案内で確認してください。朝起き会の曜日と時刻は2026年1月の取材、来訪者の参加方法は2023年掲載の報告によります。参加を考えるときは、学校や村に現在の実施状況を尋ねられます。
出典リンク集