夜の人口10,869人の村に、昼は13,522人がいます※1。沖縄本島の西海岸、リゾートホテルが並ぶ恩納村です※2。
私の頭にあったのは、ホテルと海の村でした。泊まって帰る人ばかりで、暮らしの話はあまり聞かない村。
ところが、この村の人口は1995年からの25年で25%増えました※3。そして村が困りごとに挙げているのは、村の人が新しく家を持ちにくいことのようです※4。
では、なぜ、人が集まる村で、村の人の家が足りないのか。
答えを先に言うと、宅地にできる土地が限られているうえに、リゾートが盛んになって、土地の値段も建てる費用も上がったからです※4。そして村は、その足りない家を、減ったサンゴを植え直すのと同じ手つきで埋めようとしている、と私は読みました。サンゴを守る合言葉に、あとから「人」を足した村です。定住のための住まいの助成には、どれにも「5年」という数字が付いています。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、
サンゴを植える村
昼に増える人と、足りない家
住まいの助成に付く「5年」
という3つの柱を、助成金の実額や子育ての実情も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この村は「置いたか、植えたか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。
恩納村は「サンゴを植える村」|半農半漁から海洋博、そして合言葉に「人」が足されるまで
一つ目の柱は、サンゴを植える村です。
戦前も戦後も、恩納村は半農半漁の村だったようです。それが大きく変わったのは、本土復帰のあとに沖縄で国際海洋博覧会が開かれたとき。サンゴ礁の広がる海岸線が観光資源として注目され、大型のリゾートホテルが競って建ち並びました※5。南北27.4km、東西4.2km。海岸線に14の集落が連なり、山あいに喜瀬武原がひとつ※6。
畑と海も、時代とともに姿を変えました。サトウキビに小菊や切り葉の花が加わり、漁も「獲る漁業」だけに頼らず、モズクや海ぶどうの養殖が年々育っていきました※5。糸モズクには「恩納1号」という村の品種があり、モズク・海ぶどう・アーサは「美ら海育ち」の名で商標登録されています※7。
海で育てる養殖を町の柱に据える町は、海の向こうにもあります。鹿児島県の垂水市はカンパチとブリの養殖を「基幹産業」と呼び、大分県の姫島村は沿岸漁業と車えびの養殖を「二大産業」と呼んでいます※8。
海岸線のサンゴが、減りました。オニヒトデの大量発生、赤土の流出、海水温の上昇による白化※5。村の漁業協同組合が中心になって、オニヒトデを駆除し、サンゴを養殖して海に植え付ける活動が続いています。養殖したサンゴは累計で39,159本(2021年度)。村は2027年度までに54,000本にしたいと考えているようです※9。
2018年7月21日、村は「サンゴの村宣言」をしました。掲げた言葉は「世界一サンゴにやさしい村」※10。翌年、この取り組みが評価されて国の「SDGs未来都市」に選ばれます※10。
そのあと村は、キャッチフレーズを書き換えました。「世界一サンゴと人にやさしい村」※10。サンゴのあとに「と人」が足されたのです。国から看板をもらったあとで、村は合言葉のほうに人を書き足した。海を守る合言葉が、途中から人にも向いたように見えます。
図1 サンゴを植える村と、人を足した合言葉(※10) 恩納村の仕事と住まい|昼に2,653人増える村で、村の人の家が足りない理由
二つ目の柱は、昼に増える人と、足りない家です。
村の外から働きに、あるいは通学に来る人は4,467人。村から外へ出ていく人を差し引いても、昼は夜より2,653人多くなります※1。
図2 昼に人が増える村と、足りない家(※1) 村に住んで働く人の8割近くが第3次産業で、4人に1人は宿泊業と飲食サービス業※11。村の仕事は、ホテルだけではありません。2012年9月、村に沖縄科学技術大学院大学(OIST)が開学しました※5。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の沖縄宇宙通信所もこの村にあります※12。畑では小菊やパッションフルーツが県の拠点産地に認定され、「おんなの駅 なかゆくい市場」ができてからは村の野菜がホテルへ直売されるようになりました※13。
人の出入りも多い村です。2025年の1年で、村に転入した人は1,579人、転出した人は1,534人。入ってきた人の半分近く、711人は国外からでした※14。
ここで、家の話になります。村の人が新しく家を持つのは難しい、と村は見ているようです。宅地にできる土地は農地や山林などで限られ、リゾートが盛んになるほど、土地の値段も建てる費用も上がっていく。住みたい人が増えるほど、家が追いつかなくなる形です※4。私はこの村を、海の色で覚えていました。村が数えていたのは、養殖したサンゴの本数と、村の人が住む家の数でした。
村の答えは、建てることと、残すことです。村営住宅は名嘉真団地の整備などで2027年度に114戸へ増やし、子育て世帯の優先入居を進めるとしています※15。空き家は、改修費の半分、上限200万円を村が持ちます※16。住まいの手当ては、子育て中の世帯に向いています。
「住み続けたい」と答えた村民は9割近く(2020年)。村はこの割合を2027年度に95%へ上げたいと考えています※17。住む人の気持ちを町の目標に置く町は、ほかにもあります。東京都の小金井市は「住み続けたい」と思う人の割合を、宮城県の岩沼市は「より住みやすく」という言葉を、それぞれ目標に掲げています※18。
恩納村の子育てと住まいの助成|「5年」の約束と、親のそばへ戻る世帯
三つ目の柱は、住まいの助成に付く「5年」です。
三世代同近居支援という助成金があります。子育て世帯が、村に5年以上住んでいる親のそばへ移って家を建てるか買うと、親と同居なら100万円※19。条件は18歳未満の子どもがいること、そして、もらったあと村に5年以上住むこと※19。空き家を買うか借りるかして直す人と、賃貸を建てる人の助成も並べてみます。
住まいの助成
付いている「5年」
三世代同近居
もらったあと5年以上住む※19
空き家の改修
5年以上住む意思※16
賃貸の建設
5年間は賃貸として貸す※20
植えたら、5年待つ。サンゴを植えてきた村が、人には5年を求めている、と私は読みました。
村が迎えたいのは、子どもを連れて戻ってくる人のようです。村は、子どもが生まれた日から高校を出る日まで、節目ごとに何かを用意しているようです。生まれたときには、絵本やスプーンなどが村のオリジナルのバッグに入ってもらえます※21。医療費は、保険がきく分なら0歳から高校卒業まで窓口で無料※21。小学校は村立で5校ありますが、喜瀬武原小学校は2022年度から休校で、いま開いているのは4校※22。
高校は、村の外です※23。村外の高校に通う子の親には距離に応じた通学補助があり、所得の少ない世帯には給付型の奨学金もあります※21。うんな中学校で選ばれた生徒は、隔年で友好都市の北海道石狩市と、長野県川上村へ派遣されます※24。OISTと村がひらく「こどもかがく教室」もあります※25。村は、出ていく子に道をつけたうえで、親のそばへ戻る世帯を待っているようです。
図3 親のそばへ戻り、5年以上住む(※19) 姉妹都市の縁は町ごとに違って、北海道の真狩村は、明治に香川県から入植した人たちの故郷、観音寺市と結ばれました※26。恩納村の縁は、中学生を送り出す交流です。しまくとぅばを継ぐ町は、沖縄の中にいくつもあります。北谷町は町民の演劇「しまくとぅば On Stage」を舞台に上げ、伊江村では伊江島方言辞典が編まれました※27。恩納村は、しまくとぅばをハーリーや豊年祭と並べて、次の代に継ぐ文化の列に置いています※28。
村の一年には、海と集落の行事が並びます。前兼久のハーリーや美ら海花火大会があり、集落ごとに豊年祭があり、エイサーは村の全地域に伝わっています※29。前兼久のハーリーは海神祭ともいって、村役場が動画で流しています※30。2005年からは韓国プロ野球の三星ライオンズがキャンプに来ていて、子ども野球教室が開かれます※31。集落の豊年祭やエイサーを、はじめの年は見る側で、次の年は手伝う側で迎える。そんな一年になるかもしれません。
年を取ってからは、15の集落の公民館で「がんじゅう大学」という介護予防の教室が開かれています※32。初めて介護認定を受ける年齢は平均79.4歳(2020年度)で、村は80歳に延ばしたいと考えています※33。
私の見立て|恩納村は、植えて5年待つ村
3つの柱を、モノサシに戻して並べます。海では、獲るだけに頼らず、育てる漁とサンゴを植える手を広げてきた。人については、昼に来て帰る人を迎えながら、村の人の家を建てて根付かせようとしている。定住のための住まいの助成には、どれにも5年という数字が付いている。
私の見立てはこうです。恩納村は、リゾートの村である前に、植える村です。減ったサンゴを海に戻すのと同じ手つきで、出ていった子どもを親のそばに戻そうとしている。合言葉にあとから足された「人」は、その手つきの名前だと私は読みました。同じSDGsの看板に、熊本県の小国町は「地熱と森林」と書き、富山県の南砺市は「土徳文化」と書きました※34。恩納村が書いたのは「サンゴ」で、そのあとに人を書き足した。植えたら、5年待つ。その5年は、村が待つ年月であると同時に、根が張るまでの、こちらの年月でもあります。
図4 合言葉に足された人と、根が張る年月(※10) 恩納村を数字で見たい人へ|人口・仕事・気候・助成金の要点
人口 11,233人・6,181世帯(住民票・2026年1月1日)。2025年中の転入1,579人(国内868・国外711)、転出1,534人(国内1,079・国外455)※14。住民票でみると2025年の1年は83人の減で、内訳は自然減75人・社会減8人です※14
国勢調査の人口は10,869人(2020年)。1995年から25年で25.1%増※3。昼間人口13,522人、昼夜間人口比率124.4%(2020年)※1
村に住んで働く人の78.7%が第3次産業、25.8%が宿泊業・飲食サービス業(2020年国勢調査)※11
2024年の転入905人※35・転出1,025人※36。20〜24歳は転入200人・転出214人、25〜29歳は転入169人・転出238人※37。この2024年の表は国内の移動だけを数えたもので、上の2025年の住民票の値は国外との出入りを含みます
気温: 年平均22.8℃、1月の平均最低13.7℃、8月の平均最高31.9℃(名護観測点・1991〜2020年平年値)※38
住まいの助成金: 三世代同近居 同居100万円・近居80万円・近居で賃貸30万円・引っ越し県外10万円/県内5万円(村に5年以上住む親世帯と、18歳未満の子がいる世帯。交付後5年以上居住)※19/空き家の改修 費用の50%・上限200万円(買う人・借りる人は5年以上住む意思)※16/ファミリー向け賃貸の建設 1戸85万円〜100万円(5年間は賃貸として貸すこと・令和8年度)※20
村営住宅: 9か所102戸。名嘉真団地の整備などで2027年度に114戸の計画※15
子育ての助成金(2026年4月1日時点の村の一覧): こども医療費 保険がきく分は高校卒業まで窓口無料/3〜5歳の給食費無償/小学校・中学校入学に各5万円、中学校卒業に10万円の祝い金/村外の高校への通学補助 月2,000〜14,000円(距離別)/給付型奨学金 高校5万円・県内大学10万円・県外大学20万円(非課税・低所得の世帯)※21
保育・学校: 待機児童は2021年度にゼロ。公立・認可保育園は平日19時まで延長保育※39/開いている小学校は4校(5校のうち喜瀬武原小学校は2022年度から休校)、1学級平均16.5人(2022年度)※22
老後: 米寿とカジマヤーに1万円、新100歳に3万円の祝い金※21
村の支援制度の一覧は恩納村のページ にまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に村の現行ページで確かめてください。この記事の村の話の多くは、2023年前後の時点のものです※3。サンゴの本数は2021年度の値です※9。
出典リンク集
本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。
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