
滋賀県日野町の住宅リフォーム助成金のページに、対象になる工事の一覧があります。老朽化の修繕、模様替え、下水道の接続、防犯と続き、五つ目にこう書かれています。「(5)日野祭を見るための桟敷窓の設置工事または桟敷窓の設置を伴う板塀工事」。町内の業者に頼んだ工事の費用の一部が、町の商品券で戻ってくる仕組みです※1。
六つの工事のうち「祭」の字があるのは、この(5)だけです。「桟敷窓」という語はこのページに2回出てきますが、2回ともこの一行の中です※1。
住まいの助成は、台所や浴室、耐震や太陽光のためにあるものだと、私は思っていました。
ところが、桟敷窓は、家の人が内側から開ける窓です。曳山が通る道に面した家の塀には、ふだんは閉めている窓があり、5月2日と3日の日野祭の日にだけ開けられてきました。家の人は前栽と呼ばれる前庭に桟敷を組み、緋毛氈や御簾を掛け、窓越しに通りを行く行列を見物します※2。通りに立って曳山を見る人は、その窓の外側にいます。
では、誰が窓の内側に座り、町は誰をそこへ招いているのでしょうか。
窓の内側に座るのは、祭りを迎える側の人です。そして町は、いま窓の外にいる人を、そこへ招いているようです。祭りを迎える人たち、窓のある町並みを守る人たち、窓の外から内側へ回る道筋の順に、その招き方をたどります。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、日野町の3つの柱を、住民の声や議会のやりとりも交えて解説します。モノサシは一つだけ。窓の内と外の、どちらに誰がいるか。締めくくりに、私の見立てを置きます。
日野町の桟敷窓の内側にいる人たち|祭りを待つ議員と、「若い人達にもっと日野に住んでほしい」と言う会長
一つ目の柱は、祭りを迎える側にいる人たちです。
日野祭は馬見岡綿向神社の春の例祭で、850年以上続くとされ、曳山の行事は「日野曳山祭」の名で県の無形民俗文化財になっています。町には16基の曳山が残ります※3。県の指定は1985年3月29日の告示で、所在地には村井や大窪など八つの大字が並びます※4。
窓の内側の人は、祭りを待っています。2026年3月6日の議会で、ある議員は日野祭を「私もあと3か月やな、あと2か月やなって楽しみにいつも待っている」と言いました。担当課長は、町が補助しているのは曳山の保存修理や囃子の後継者育成などで、日野祭総合調査では「8つの大字が一緒にお祭りをする郷の祭り」に光を当て、国に訴えていきたい、と述べています※5。
図1 祭りを迎える桟敷窓(※6)内側の人には、心配もあります。曳山保存会の会長は2024年1月の町のnoteで、曳山の老朽化が進み、自分の町内の本町の曳山を2024年と2025年にかけて修繕していると話したうえで、「日野祭の火を絶やさないという為にも、若い人達にもっと日野に住んでほしい」と言いました※7。窓を開ける家と、曳山を引く人。祭りには、内側に座る人が要ります。町のほうは、本町通り沿いの桟敷窓のある町並みを、指定はまだ受けていない文化財に数えているようです※9。妻籠宿を集落保存の先駆けと住民運動の成功例に数える長野県の南木曽町と、桟敷窓のある町並みを未指定の文化財に数える日野町。どちらも、住民が残した町並みを、町が自分の言葉で数え直しています※8。
日野町の商人の町並みを守る会|商人の財力もあって整えられた町並みと、2008年に再出発した会
二つ目の柱は、窓のある町並みを守る側です。
その町並みは、商人の財力もあって整えられました。近江日野商人は、領主の蒲生家が国替えになって活気を失った日野から行商に出た人たちで、「千両たまれば新しい店を出す」という小さな店の経営を主流にして、関東一円にまで店を出しました※10。まちなみ保全会の会長によれば、1756年の大火のあとも、日野商人の財力もあって町が大きく発展し、日野祭の曳山がつくられ、町並みも整えられてきました※7。
町並みを守る会は、町の呼びかけで1999年にできた町並みと景観を考える会が下火になったあと、2008年に民間主導の日野まちなみ保全会として再出発しました※7。
図2 窓のある町並みを守る営み(※11)会の発足時からの会員で、いまの会長を務める日野出身の人は、「まちなみ」は建造物だけでなく、暮らしに根ざした生活文化や、四季の祭りや行事を通じた営みまで含んだものだと語ります。ベンガラ格子も、「日野祭の渡御を座敷から見るために板塀に設えられた」桟敷窓も、その大切な要素で、古い家に住む人が外観を直すときはまちなみの維持に心配りを、と続けています※7。明治18年の大火のあとに宿の人たちが議決した町並みが令和3年に国の重伝建に選ばれた鳥取県の若桜町と、大火のあとに商人の財力もあって整えられた町並みを民間の会が守る日野町。どちらも、大火のあとに住民が建て直した町並みです※8。
日野町で窓の外から内側へ回る道筋|座敷をのぞく日から、自治会と顔を合わせる日まで
三つ目の柱は、窓の外から内側へ回る道筋です。
窓の外にいる人が、座敷をのぞける日があります。窓は、祭りのほかに秋と早春にも開きます。10月中旬の「桟敷窓アート」と2月上旬から3月上旬の「日野ひなまつり紀行」の期間にも窓は開放され、しつらえた座敷が通りから見えます※2。ひなまつり紀行では、桟敷窓のある商家や個人宅など150か所以上にお雛様が飾られ、2025年秋の桟敷窓アートのあと、観光協会は「たくさんの方にお越しいただきました」と書いています※14。町の伝統料理を継承する会の代表は、「秋の桟敷窓アートで観光客の方へ鯛そうめんを提供するようになって」活動の幅が広がった、と話しています※7。
のぞく人が住む人に変わる手前に、一段があります。空き家・空き地情報登録制度の利用登録の対象は、空き家に定住または定期的に滞在し、地域の活性化に寄与しようとする人で、登録する人には自治会への加入について理解が求められます。契約の前には、自治会と顔を合わせる手順があります※12。2026年9月の一覧に載る空き家は16件で、16件とも売買の物件です。「市街地」と書かれた家は3件です※12。
図3 契約の前に、自治会と顔を合わせる(※12)同じ町には、家の話の途中で山へ誘われた夫婦がいます。大阪出身の夫婦は、村井の築120年の古民家を譲り受ける話を進める中で、古くから町で仕事をしている司法書士から、4月20日に綿向神社の宮司たちが綿向山へ登る日があるから一緒にどうかと勧められ、2019年4月20日に初めて登りました。2023年10月のnoteで、その後も毎年、宮司たちと登っていると話しています※7。契約の前の顔合わせと、家の話の途中の山への誘い。どちらも、町の人と顔を合わせる一段です。福井県から来て2024年の時点で3年になる寺の副住職の一言は、「なんとかなるから来てください。周りの方がなんとかしてくれます」でした※7。
冒頭の一行は、少なくとも2025年度の一覧から続いています※1。空き家を買って直す人への上乗せを、担当課長は2023年6月の議会で転入の促進のためと説明しています※13。
私の見立て|日野町は、窓の外にいた人を内側へ招く町
3つの柱を、モノサシに戻して並べます。窓の内側には、祭りの日に窓を開ける家の人と、曳山を修繕する保存会と、郷の祭りを国に訴える町がいる。町並みを守る側には、2008年に民間主導で再出発した会がある。窓の外から内側へは、座敷をのぞける秋と早春の日があり、契約の前には自治会と顔を合わせる一段がある。妻籠と若桜と日野の町並み。どれも住民が残し、町が自分の言葉で数え直した町並みです。
図4 桟敷窓を内側から開ける(※2)私の見立てはこうです。日野町は、窓の外にいた人を内側へ招く町です。住み続ける理由は、越してから育つものだと私は思っています。最初の年に窓を開ける側にならなくても、座敷をのぞく秋や早春の日があります。県が「日野曳山祭」を指定した1985年から41年たった2026年3月、議会で町は「8つの大字が一緒にお祭りをする郷の祭り」を国に訴えると答えました※5。曳山保存会の会長の言葉は、「町外からもですね、祭り好きな若い方に選んでいただきたい」でした※7。桟敷窓は、内側から開ける窓です※2。
日野町を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬・助成金の要点
| 項目 |
数字 |
| 人口 |
20,421人(2026年1月)※16 |
| 世帯 |
8,846世帯(同)※16 |
| 製造業で働く人 |
34.7%(2020年)※17 |
| 第一次産業の人 |
5.3%(2020年)※17 |
| 昼夜間人口比率 |
102.9%(2020年)※18 |
| 1月の最低気温 |
−1.6℃(土山)※19 |
- 2025年の1年は、転入793人(国内578・国外215)、転出887人(国内805・国外82)、生まれた人115人、亡くなった人296人でした※16
- 2024年の他の市区町村との出入りは、転入681人・転出800人(外国籍の人を含む)。0〜4歳は転入34人・転出22人、25〜29歳は転入132人・転出205人でした※20
- 桟敷窓が開く日: 5月2日・3日の日野祭※2、10月中旬の桟敷窓アート(2025年は18日・19日)、2月上旬〜3月上旬のひなまつり紀行(2026年は2月8日〜3月8日)※14
- 祭りの暦: 9月の第1日曜に近江中山の芋競べ祭り(1991年に国の重要無形民俗文化財)※21
- 2024年9月の議会では、2023年秋のスタンプラリーに224人、2024年春に391人が参加したと報告されました※15
移住と住まいの助成(2026年9月時点の町のページ。利用の状況は2025年12月の議会答弁)
- 移住支援金: 2人以上の世帯100万円・単身60万円、18歳未満の世帯員一人につき30万円の加算。東京23区に住むか通っていた期間の条件があり、転入後1年以内に申請します※22。町の担当は2025年12月の議会で、支援は始まっているが「まだ対象としては今現在、利用の方がない状況」と答えています※23
- 住宅リフォーム等促進事業助成金: 自分が所有して住む家を町内の業者で直す20万円以上の工事が対象で、空き家を買って直す人(転入・町内の住み替え)は率が上がります。町の商品券で交付※1
| 工事をする人 |
助成の枠(2026年度)※1 |
| 持ち家を直す |
費用の10%・上限10万円 |
| 空き家を買って直す |
20%・上限20万円 |
表1 リフォーム助成の枠(自分が所有して住む家を町内の業者で直す工事・商品券で交付。桟敷窓の工事も同じ枠)
- 空き家・空き地情報登録制度: 物件の紹介には利用登録が必要で、自治会への加入について理解を求められます。空き地は16件(うち1件は古家付き)※12
人口の推移と年齢別の出入りは日野町の人口ページに、暮らしのデータは日野町のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に町の現行ページで確かめてください。働く人の割合は2020年の国勢調査、昼夜間人口比率は当サイトの集計、気温は土山観測点(甲賀市)の平年値です。
出典リンク集
本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。