白川村に移住して、合掌の家を村の外の手と守る|荻町の名の由来ともいわれる草は屋根に上がらない

公開日: 2026-10-09最終更新日: 2026-10-10
白川村/屋根に使わないオギも雪囲いに編んで試す/①屋根の材料を刈る/②雪囲いを編む/③住む人同士で家を守る

「イベント当日は、村内から21人、村外から24人の計45人が参加。ここ数年はコロナ禍で大規模な実施ができていなかったため、久しぶりに多人数での開催となりました。」※1

2023年11月、白川村で行われた茅刈りの記録です。合掌造りの家を守る仕事は、家の持ち主と茅葺き職人が担う。私は、その二者の仕事として考えていました。

ところが、村外から来た人も鎌を使い、刈った茅の束を運んでいます。しかも、この日の午後には、屋根には使わない草を刈りました。翌日に作る、すだれ状の雪囲い「オダレ」の材料です※1。

では、なぜ白川村は、家を守る材料づくりに村外の人を誘うのでしょう。

答えは、村内外で茅を刈り、屋根に使わないオギで雪囲いを編むことを試し、結で家の手入れを分け合うまで、材料と家を支える手が要るからです。村で茅を賄いたいが人手が足りない。その思いを聞いた日本ナショナルトラストが、村外から人を集められないかと考えました※2。

この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、屋根の材料を刈る、雪囲いを編む、住む人同士で家を守るという3つの柱を、住まいと仕事の要点も交えて解説します。モノサシは一つだけ。家を守る手仕事を、誰とどこで分け合うか。締めくくりに、私の見立てを置きます。

白川村で屋根の材料を刈る|42名が集めた724束は、翌年の屋根へ

一つ目の柱は、屋根の材料を刈ることです。

世界遺産登録20周年の2015年、村は、刈った茅を円すい状に積む昔の保管方法「茅ニュウ」を記念モニュメントにする参加者を募りました。その茅は、翌年に予定する旧松井家の結の屋根葺きに使うと案内していました※3。

翌年の屋根に備える茅刈りは、2020年11月14日にも行われました。当時、村内の合掌造りの屋根材の多くは村外から仕入れており、村は、できる限り自分たちで茅を賄いたいと考えていました※4。

この年は感染拡大防止のため村民だけの作業で、子どもから大人まで42名が茅場に集まります。村に住んでいても、初めて刈る人がいました。職人から教わり、丈夫な茅を刈るのに苦戦する人のそばで、熟練の職人は次々と刈り取っていきました※4。

刈った茅を束ねるときにも、職人のコツがあります。藁縄で縛る位置は下から5分の3。乾かすために束を立てたとき、根元が広がって倒れにくくなります。熟練の村民が束ねた茅は、彫刻のように整っていたと村の記録は伝えています※4。

この日は、およそ6時間の作業で724束が集まりました。保管庫で乾燥させたあとも仕事は続き、職人が雑草などを取り除き、翌年の屋根の葺き替えに使う材料に整えます※4。

724束が集まりました/職人/保管庫。秋の茅場で茅を束ねる人々の後ろ姿、山と茅の保管庫
図1 724束が集まりました(※4)

白川村で雪囲いを編む|屋根に上がらないオギで、雪囲いを試す

二つ目の柱は、雪囲いを編むことです。

刈った茅を屋根材に整える仕事に加え、茅刈りの翌日には、白川村の暮らしや文化を知る企画も用意されます。2022年の取材で、その企画を考えていたのは、主に首都圏に暮らすボランティアの「かややね会議」でした。村内に合掌造りの家を所有し、村民や役場と協力して維持してきた日本ナショナルトラストが、運営を支えています※2。

メンバーは東京やオンラインで相談し、出たアイデアを村へ持っていきます。村の人からも、メンバーには思いつかなかった案が返ってきました。2022年に作ったのは、茅や松などの自然素材を使った正月飾り。帰宅してからも白川村を思い出せるように、という思いからでした※2。

翌2023年11月の茅刈りには、かややね会議のメンバーも参加しました。冒頭の村外24人の中には、初めて来た人もいます。その動機の一つが「観光だけではない白川村を知りたい」でした※1。

初参加の人は、鎌を斜めに入れて引くよう職人に教わり、刈った束を、乾燥させる「はさ小屋」まで運びました。束を持って列を作る人たちに、観光客がカメラを向け、「これは何の行事?」と尋ねる場面もありました。午前中に刈ったのは、屋根に使うススキです※1。

午後には、同じ茅刈りでも別の草を刈ります。休耕田に茂る「オギ」です。茅は屋根を葺く植物の総称で、この村で主に使うのはススキ。オギは荻町の名の由来になったともいわれていますが、ススキより重く太いため、白川村の合掌造りの屋根には使われません※1。

屋根に使わないオギが、休耕田で雑草のように茂っていました。なんとか活用できないかと、2023年の催しで試すことになったのが、オダレづくりです。オギはススキより硬く、初めての人には1本刈るのも大変な作業でした。職人から教わりながら、翌日に編む分を刈り取ります※1。

この雪囲いづくりは、翌2024年の催しにも続きます。ただ、11月2日は雨。一般参加の茅刈りは中止し、守る会などの有志8名が旧松井家周辺の茅刈りと雑木の伐採を行いました。村外の参加者には、職人の仕事場や合掌造りの構造を学ぶ場を用意しました※5。

翌日は晴れ、オダレを編みました。一般的な材料のススキに代えて、守る会が休耕田を整備した茅場のオギを使います。丈夫なオダレを作り、広めようとする取り組みです※5。

1グループ5名が力を合わせ、1枚を作りました。合計7枚が完成しました。行き先は、野外博物館合掌造り民家園の雪囲いとして使う予定だと広報は伝えています※5。

7枚が完成しました/オギ/雪囲い。オギの茎を縄で編む人々の後ろ姿と、山あいの茅葺きの家
図2 7枚が完成しました(※5)

村外参加者のアンケートには「白川郷の合掌造り民家を守る体験ができて貴重だった。」という言葉が残りました※5。

白川村で住む人同士が家を守る|屋根葺きに延べ150人、火の用心は毎日の当番

三つ目の柱は、住む人同士で家を守ることです。

雪囲いを編む人から、今度は屋根を葺く人へ。合掌造りの持ち主同士が手伝い合う「結(ゆい)」があります。相手の屋根を葺く労働を、対等に交換する仕組みです※6。

2025年11月8日と15日、荻町の合掌造り民家で、結の屋根葺きが2回に分けて行われました。延べ150人が参加しています。屋根を葺き終えた記録には「延べ150名が参加し無事に葺くことができました。」とあります※7。

延べ150人が参加しています/結/延べ150人。山あいの茅葺き屋根を葺き替え、茅の束を受け渡す人々の後ろ姿
図3 延べ150人が参加(※7)

屋根を葺き終えたあとも、村民の当番は続きます。茅葺き屋根は火に弱く、火災が集落に広がる恐れがあります。村民は、火の用心の巡回を当番制で365日欠かさず行っています。60基の放水設備を各家で管理し、山の水源設備も点検します※6。

毎日の巡回に加え、用水路の掃除や山道の草刈りにも、結の精神が根付いています※6。移住先の物件を案内する空き家バンクにも、区や組で分け合う用事として、火の用心や水路の清掃が並びます。待っている人への言葉は「地域の一員として仲間となってくださる方をお待ちしています。」です※8。

家を手入れする人を支える、茅の供給も続けていく必要があります。2026年6月の村議会で村が示したのは、職人が一年を通じて生計を立てられるよう、茅刈りの雇用と、茅場の手入れや休耕田の復旧を組み合わせて働ける環境を検討する、というものでした※9。

茅刈りや屋根葺きを体験する場として、2026年11月6〜8日には、合掌造り民家と茅場でのワークショップが予定されています。主催の日本茅葺き文化協会は「どなたでも参加可能です。」と呼びかけています※10。

私の見立て|白川村は、屋根に使わないオギも雪囲いに編んで試す村

モノサシの「家を守る手仕事を、誰とどこで分け合うか」に戻ります。材料を集める場では、初めて鎌を持つ人を職人が教えます。材料を試す場では、村内外の人がオギを編みます。住む場では、持ち主同士と毎日の当番が家を支えます。

私の見立てはこうです。白川村は、屋根に使わないオギも雪囲いに編んで試す村です。荻町の名の由来ともいわれる草が、休耕田から、民家園向けの雪囲いの材料になりました。

2024年の村外参加者は「まだまだ現地の方々に何かしたいことがありました。また来ようと思います。」と答えています。この年は、村内外で力を合わせ、雪囲い7枚を完成させました※5。冒頭の村外24人が2023年に運んだのは、白川村の家を守る茅の束でした※1。

オギも雪囲いに編んで試す/オギ/雪囲い。作業台でオギを縄で編む手もとと、遠くの雪の山あいの集落
図4 オギも雪囲いに編んで試す(※5)

白川村を数字で見たい人へ|人口・住まい・仕事と移住の要点

人口や年齢構成、地域の基本情報は白川村のページで確かめられます。

村の空き家バンクは、白川村の暮らしが「区」や「組」で成り立ち、冠婚葬祭やお祭、火の用心、水路の清掃などを結で分け合っていると案内しています。物件の問い合わせは、移住問い合わせシートを役場に出すところから始まります※8。

問い合わせシートは、本人確認書類のコピーを添えて、メールかFAXで提出します。提出後の役場の協議には、土日祝日と年末年始を除いて1週間〜10日程度かかり、そのあとに見学日を調整します。気に入った物件があれば、役場から所有者につなぎ、以降は所有者と直接やり取りします※8。

賃貸住宅の助成は、村が指定する民間賃貸住宅が対象です。村外から移住し、住民登録から2年以内、契約者が実際に住む、今後も定住する意思があることなどが条件です。礼金相当額は1回、家賃は月額から40,000円を差し引いた額の2分の1以内を助成します。所得に応じた限度額があり、勤務先の住宅手当や村税の滞納の有無なども確認されます※11。

対象住宅や助成の期間は交付要綱でも確認できます。制度は年度で変わるため、申請前に現行の案内を確認し、観光振興課へ対象になるかを尋ねてください※12。

項目 数字・時点
茅刈り参加 2023年45人
オダレ完成 2024年7枚
火の用心 当番で365日
礼金助成 相当額を1回
家賃助成 4万円超の部分の半分以内

仕事は、村の移住情報の「仕事を探す」から、村内の就職に関する案内を確認できます※13。茅場の仕事について本文で触れたのは、2026年6月の村議会で村が答えた、就労環境を検討する方針です※9。

2026年11月6〜8日開催予定のワークショップは先着30名で、一般の人、地元住民、学生、建築の技術者や専門家などが対象です。小中学生は保護者同伴。申込みは10月23日締切で、定員に達すると終了します。雨天時には結の屋根葺きを別の内容に変更する場合があります※10。

会場は、屋根葺きが荻町の合掌造り民家、茅刈りが白川八幡神社の上の茅場です。主催は日本茅葺き文化協会、共催は白川村・教育委員会・日本ナショナルトラスト。交通は各自で手配し、村までの高速バスは予約が必要です。申込みの前に、主催者の案内で定員や実施内容を確かめてください※10。

出典リンク集

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