
群馬県の草津町で、宿が町の温泉を引こうとすると、まず湯船の表面積を届け出ます。引ける湯の量はその広さから式で決まり、許可には町議会の議決が要ります※1。
私は、湯がいくらでも湧く町なら、湯も水道の水のように、ほしい分だけ引けるものだと思っていました。草津は、自然湧出量日本一を名乗る町です※2。
ところが、この町の源泉のほとんどは、町が持ち、管理しています※2。その湯は、一軒に分けるたびに量られていました。許可は3年ごとに更新され、湯を引く人が最初に納める分担金は、町に住んで3年たったかどうかで3倍ちがいます※1。
では、なぜ、日本一を名乗るほど湧く町が、湯をここまで細かく量るのか。
湯には限りがある、と町自身が言っているからです。町の指針は温泉を「無限ではなく有限」と呼び、温泉を守る条例も「天然資源であるがゆえに有限」と前置きしています※3。限りがあるから、町は湯を、宿には湯船の広さで量って分け、住む人には地区の共同浴場と、源泉の熱で温めた水で配り、その湯で働く人を町ぐるみで迎えています。
この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、
- 湯を量って分ける決まり
- 住む人に届く湯
- 湯を回す人の一年
という3つの柱を、冬の暮らしや移住の助成金の実額も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この町は湯を「誰に、どう分けているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。
草津町の温泉は町の財産|湯船の広さで量り、町議会の議決で分ける決まり
一つ目の柱は、湯を量って分ける決まりです。
湯畑では、湧いた湯をまず7本の木樋に通して外の空気で冷まし、湯滝から落としてから、パイプで共同浴場の「千代の湯」や旅館の内湯へ送っています。湯畑だけで毎分4,000リットル、町全体では毎分32,300リットル以上の湯が湧くと、観光協会は伝えています※4。
町の条例が町の温泉として挙げる源泉は、湯畑・白旗、地蔵、西の河原、煮川、千代の湯、わしの湯、凪の湯、湯川沿線、万代の9つです。このうち西の河原の源泉は、町の大切な観光資源として、引くことを制限できるとされています※1。
湯を引けるのは宿や従業員の寮、公共の施設などに限られ、申し込むときは湯船の表面積を届けます。式に当てはめると、湯船1平方メートルあたり毎分およそ3リットル。許可を出すのは町長ですが、その前に議会の議決を経なければなりません※1。
図1 湯船の広さで量り、議決で分ける(※5)許可を受けた人が最初に納める分担金は、許された湯1リットル毎分あたり、町に住んで3年たった人や、そうした人が中心の会社なら30万円(税別)、それ以外は90万円(税別)です。許可は3年ごとに更新し、2年たっても湯を引き始めなければ取り消されることもあります※1。
議決は、湯を引く許可1件ごとに行われています。2025年10月の町議会だよりには、万代源泉から毎分45リットル、湯畑源泉から毎分11リットル、万代源泉から毎分11リットルと、3件の許可が1件ずつ可決されたと載っています※6。毎分11リットルは、式に当てはめると湯船およそ3.6平方メートルぶんの湯です。2026年の議会では、湯畑と地蔵の二つの源泉について、この先の申請に「余裕はほとんどない」と町の側が答えています※7。
町は2025年6月の指針で、条例の言葉は「許可することができる」であって、申請すれば自動で許可されるものではない、議案には出席議員の過半数の賛成が要る、と改めて示しました。先人が守り続けてきた温泉は「かけがえのない草津町の財産」だと言います※8。町には、温泉を「草津町民の生活の礎」と呼び、乱開発から守る条例もあります※9。町議会には「温泉・温水対策特別委員長」の席もあります(2024年10月時点)※10。
足元の熱の使い方を決まりに書いた町は、ほかにもあります。熊本県の小国町は、地中から生み出される地熱の活用は「計画的かつ永続的であるべき」だとして、2016年1月に地熱資源の適正活用に関する条例を定めています※11。
草津町に住む人の湯|自分の地区の共同浴場と、源泉の熱で温めた54℃の水
二つ目の柱は、住む人に届く湯です。
町は19か所の共同浴場を置き、一部を無料で開いて、住む人にも旅の人にも使ってもらっています※2。移住を案内する観光協会のサイトは、住む人は自分が住む地域の共同浴場を使えるとし、「毎日、温泉に入れるというのは草津に住む特権です」と添えています※12。どこに住まいを決めるかで、毎日通う湯も変わってくるはずです。
家にも、申し込めば、源泉の熱で温めた水を引けます。万代源泉はおよそ94.5℃で湧くため、町は1976年度から、湯船に使える温度まで下げようと、水道の水と熱を交換させてきました。そのとき温まった約60℃の水を、町は温水として各家庭に送り、昼も夜も絶えず、量湯器のところで54℃を基準にしています※13。宿は湯船の広さで、家は月10立方メートルの枠で。この町では、湯も温水も量って分けられます※14。温泉の熱は、道路の融雪や公共施設の暖房にも回っています※15。
図2 地区の共同湯と、家に届く54℃の温水(※16)町は標高1,200メートルの高原にあり、町の観測点「草津」の平年値では、1月の最低気温は−7.8℃、8月の日中の最高気温は24.2℃で、1年に降る雪を合わせると644センチになります※17。朝は湯の熱で雪の溶けた道を出かけ、夕方は地区の共同浴場で温まる。冬はそんな日々が続きそうです。
共同浴場は、湯を受け取る場所であると同時に、住む人が守る場所でもあります。観光協会は、町でいちばん大きな共同湯と紹介する「白旗の湯」の案内で、共同湯は地元の人の生活のために設けられ、地元の人たちが管理して使っているお風呂だと言い、午前中を中心に掃除の時間があると断っています※18。移り住んだ人が毎日通うのも、地区の人たちが守ってきた湯です。
湯の熱を暮らしに回す町は、北海道の羅臼町もそうです。羅臼町は、地熱のエネルギーを役場庁舎や温水プール、診療所の暖房に使い、駐車場の雪も溶かしているとしています※19。
草津町で湯を回す人の一年|合同入社式「来草歓迎式」と、住んで3年の節目
三つ目の柱は、湯を回す人の一年です。
町に住んで働く人のおよそ45%にあたる1,509人(2020年)と、会社の42%にあたる208社(2021年)が、宿泊・飲食サービスの仕事です※20。
移り住んで新しく宿を始める人にとっては、冒頭の「住んで3年」が一つの節目になります。町に住んで3年たった人が新しく湯を引く許可を受けるときの分担金は、そうでない人の3分の1です※1。よそから移り住む人は、この町では珍しくありません。18〜49歳の町民に聞くと、58%が町の外で生まれ、いまは草津で暮らしていると答えています※21。
その働き手を、草津では宿ごとの採用とは別に、町ぐるみでも迎えています。2026年4月22日、観光協会の人材育成の部会などによる第7回の草津温泉合同入社式「来草歓迎式」が開かれ、12の施設から47人が集まりました。この年は初めて「熱乃湯」を会場にし、新しく来た人たちは湯もみも体験しています※22。別々の宿や施設に入った人が、同じ日に、同じ湯をもんで町の新人になる。この式は、2024年の時点で、すでに5回を数えていました※23。
移り住む前に試せる住まいも、2026年度にできました。町は2024年に、町の建物を直して3か月ほどのお試し暮らしができる住まいを整えるとし、2026年度から移住体験住宅を始めています。前原ハイツの3DKの一室を、1か月3万円で、1か月から6か月まで借りられます。家具はそろっていて、光熱水費は自分で払い、観光のための利用はできません※24。2026年5月からは、草津温泉で食堂を営み、自身も移り住んだ移住コーディネーターが、住まいや仕事、暮らしの相談に乗っています※25。
図3 同じ湯をもんで、町の新人になる(※26)4月に熱乃湯で湯をもんで町の新人になった人は、涼しい夏に客を迎え、雪の季節も同じ湯の町で働く。そんな一年を重ねていくことになりそうです。
湯や地熱の熱を、そのまま仕事にしている町もあります。北海道の森町は、地熱水や温泉熱をいかしてハウストマトを育て、熊本県の小国町は、温泉地熱で小国杉を乾かす施設を動かしています※27。
私の見立て|草津町は、湯を量って分け合う町
3つの柱を、モノサシに戻して並べます。宿には、湯船の広さで量った湯を、議会の議決を経て分けています。住む人に配るのは、地区の共同浴場と、源泉の熱で温めた水と、雪を溶かす熱。湯を回す人は、宿ごとの採用に加えて、町ぐるみの入社式でも迎えられます。熊本県の小国町が地熱の使い方を決まりに書いたように、この町も、湯の使い方を決まりに書いて守っています。
私の見立てはこうです。草津町は、日本一を名乗るほど湧く湯を、限りあるものとして量って分け合う町です。湯を分けるたびに議会の議決を経る決まりは、2025年の指針でもう一度示されました※8。湯畑の源泉にも、この先の申請に「余裕はほとんどない」と町は答えています※7。その湯を、湯船およそ3.6平方メートル、畳2枚ほどの広さぶんでも、議決を経て分けています。2026年7月の町議会だよりでも、湯を引く許可は、1件ずつ議会にかけられています※28。
図4 湯を引く許可は、1件ずつ議会へ(※28)草津町を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬・助成金の要点
| 項目 |
数字 |
| 人口 |
6,025人(2026年1月1日)※29 |
| 世帯 |
3,568世帯(同)※29 |
| 宿泊・飲食で働く人 |
約45%(2020年)※20 |
| 観光客 |
370万人(2023年度)※30 |
| 1月の最低気温 |
−7.8℃(平年値)※17 |
- 2025年の1年は、転入656人(うち国外から256人)、転出595人、生まれた人32人、亡くなった人105人でした※29
- 観光客の370万人は2023年度の数字で、町の記録で過去最高です※30
移住と住まいの助成・費用(2026年9月時点)
- 移住支援金: 住民票を移す直前の10年のうち通算5年以上、東京23区に住むか、東京圏から23区へ勤めに通っていて、直前にも1年以上続けていた人が、県のマッチングサイトの求人に就く、テレワークを続ける、起業するなどして町へ移ると、単身60万円・2人以上の世帯100万円。18歳未満の子を連れて移ると1人につき30万円が加わります。上の東京23区の条件を満たす人のうち、転入のとき50歳未満で、町に住んだことがあり、家業を継ぐか農林業に就く人も対象です。転入の翌日から1年以内に申請し、予算の枠があるので事前の相談が要ります※31
- 移住体験住宅: 1か月3万円(1か月を超えた端数は1日千円)で、1か月から6か月まで。3DKで家具つき、光熱水費は自分で払います。移住の相談を受けてから利用が許可されます※24
- 家の温水: 引くときは、月10立方メートルの枠ごとに15万円(税別)の分担金を納め、使った分は申し込んだ量までなら1立方メートル255円(税別)です。届く区域は、大字草津のうち、すずらん区などを除いたところです※32
子育て・学びの要点
- 出産祝金: 2022年4月1日以降に生まれ、初めて住所を草津町に登録した子が対象で、第1・2子5万円、第3子10万円、第4子以降15万円。出産の日に、6か月以上前から町に住所があることなどが条件です※33
- 学校: 小学校と中学校が1校ずつ。町は2024年の時点で、給食費を無料にし、小学校から高校生までの就学費を補助しているとしています※34
- 町民の特典: 入浴施設を半額で使えたり、スキー場のリフト券を安く作れたりする、と移住応援サイトは案内しています(2022年の案内)※35
人口の推移と将来の見通しは草津町の人口ページに、暮らしのデータは草津町のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に町の現行ページで確かめてください。移住支援金の要綱は2026年4月、出産祝金のページは2022年3月の更新です。働く人の数字は2020年の国勢調査をもとにした町の集計で、気温と雪は町の観測点「草津」の1991〜2020年の平年値です。
出典リンク集
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