毎分11リットルの湯にも、町議会の議決が要る町|草津町に移住して、湯を量って分け合う側で暮らす

公開日: 2026-09-27
草津町/湯を量って分け合う町/① 湯を量って分ける/② 住む人に届く湯/③ 湯を回す人の一年

群馬県の草津町で、宿が町の温泉を引こうとすると、まず湯船の表面積を届け出ます。引ける湯の量はその広さから式で決まり、許可には町議会の議決が要ります※1。

私は、湯がいくらでも湧く町なら、湯も水道の水のように、ほしい分だけ引けるものだと思っていました。草津は、自然湧出量日本一を名乗る町です※2。

ところが、この町の源泉のほとんどは、町が持ち、管理しています※2。その湯は、一軒に分けるたびに量られていました。許可は3年ごとに更新され、湯を引く人が最初に納める分担金は、町に住んで3年たったかどうかで3倍ちがいます※1。

では、なぜ、日本一を名乗るほど湧く町が、湯をここまで細かく量るのか。

湯には限りがある、と町自身が言っているからです。町の指針は温泉を「無限ではなく有限」と呼び、温泉を守る条例も「天然資源であるがゆえに有限」と前置きしています※3。限りがあるから、町は湯を、宿には湯船の広さで量って分け、住む人には地区の共同浴場と、源泉の熱で温めた水で配り、その湯で働く人を町ぐるみで迎えています。

この記事では、自治体と国が発表している一次資料を読んで見えてきた、

という3つの柱を、冬の暮らしや移住の助成金の実額も交えて解説します。モノサシは一つだけ。この町は湯を「誰に、どう分けているか」。締めくくりに、私の見立てを置きます。

草津町の温泉は町の財産|湯船の広さで量り、町議会の議決で分ける決まり

一つ目の柱は、湯を量って分ける決まりです。

湯畑では、湧いた湯をまず7本の木樋に通して外の空気で冷まし、湯滝から落としてから、パイプで共同浴場の「千代の湯」や旅館の内湯へ送っています。湯畑だけで毎分4,000リットル、町全体では毎分32,300リットル以上の湯が湧くと、観光協会は伝えています※4。

町の条例が町の温泉として挙げる源泉は、湯畑・白旗、地蔵、西の河原、煮川、千代の湯、わしの湯、凪の湯、湯川沿線、万代の9つです。このうち西の河原の源泉は、町の大切な観光資源として、引くことを制限できるとされています※1。

湯を引けるのは宿や従業員の寮、公共の施設などに限られ、申し込むときは湯船の表面積を届けます。式に当てはめると、湯船1平方メートルあたり毎分およそ3リットル。許可を出すのは町長ですが、その前に議会の議決を経なければなりません※1。

湯を量って分ける/湯船の表面積/町議会の議決。湯船の広さを量る木の物差しと白紙の申請書を添えた、湯気の立つ架空の浴場。
図1 湯船の広さで量り、議決で分ける(※5)

許可を受けた人が最初に納める分担金は、許された湯1リットル毎分あたり、町に住んで3年たった人や、そうした人が中心の会社なら30万円(税別)、それ以外は90万円(税別)です。許可は3年ごとに更新し、2年たっても湯を引き始めなければ取り消されることもあります※1。

議決は、湯を引く許可1件ごとに行われています。2025年10月の町議会だよりには、万代源泉から毎分45リットル、湯畑源泉から毎分11リットル、万代源泉から毎分11リットルと、3件の許可が1件ずつ可決されたと載っています※6。毎分11リットルは、式に当てはめると湯船およそ3.6平方メートルぶんの湯です。2026年の議会では、湯畑と地蔵の二つの源泉について、この先の申請に「余裕はほとんどない」と町の側が答えています※7。

町は2025年6月の指針で、条例の言葉は「許可することができる」であって、申請すれば自動で許可されるものではない、議案には出席議員の過半数の賛成が要る、と改めて示しました。先人が守り続けてきた温泉は「かけがえのない草津町の財産」だと言います※8。町には、温泉を「草津町民の生活の礎」と呼び、乱開発から守る条例もあります※9。町議会には「温泉・温水対策特別委員長」の席もあります(2024年10月時点)※10。

足元の熱の使い方を決まりに書いた町は、ほかにもあります。熊本県の小国町は、地中から生み出される地熱の活用は「計画的かつ永続的であるべき」だとして、2016年1月に地熱資源の適正活用に関する条例を定めています※11。

草津町に住む人の湯|自分の地区の共同浴場と、源泉の熱で温めた54℃の水

二つ目の柱は、住む人に届く湯です。

町は19か所の共同浴場を置き、一部を無料で開いて、住む人にも旅の人にも使ってもらっています※2。移住を案内する観光協会のサイトは、住む人は自分が住む地域の共同浴場を使えるとし、「毎日、温泉に入れるというのは草津に住む特権です」と添えています※12。どこに住まいを決めるかで、毎日通う湯も変わってくるはずです。

家にも、申し込めば、源泉の熱で温めた水を引けます。万代源泉はおよそ94.5℃で湧くため、町は1976年度から、湯船に使える温度まで下げようと、水道の水と熱を交換させてきました。そのとき温まった約60℃の水を、町は温水として各家庭に送り、昼も夜も絶えず、量湯器のところで54℃を基準にしています※13。宿は湯船の広さで、家は月10立方メートルの枠で。この町では、湯も温水も量って分けられます※14。温泉の熱は、道路の融雪や公共施設の暖房にも回っています※15。

住む人に届く湯/自分の地区の共同浴場/54℃を基準。雪の残る町の道を、入浴のかごを持った小さな後ろ姿が地区の共同浴場へ向かう場面。
図2 地区の共同湯と、家に届く54℃の温水(※16)

町は標高1,200メートルの高原にあり、町の観測点「草津」の平年値では、1月の最低気温は−7.8℃、8月の日中の最高気温は24.2℃で、1年に降る雪を合わせると644センチになります※17。朝は湯の熱で雪の溶けた道を出かけ、夕方は地区の共同浴場で温まる。冬はそんな日々が続きそうです。

共同浴場は、湯を受け取る場所であると同時に、住む人が守る場所でもあります。観光協会は、町でいちばん大きな共同湯と紹介する「白旗の湯」の案内で、共同湯は地元の人の生活のために設けられ、地元の人たちが管理して使っているお風呂だと言い、午前中を中心に掃除の時間があると断っています※18。移り住んだ人が毎日通うのも、地区の人たちが守ってきた湯です。

湯の熱を暮らしに回す町は、北海道の羅臼町もそうです。羅臼町は、地熱のエネルギーを役場庁舎や温水プール、診療所の暖房に使い、駐車場の雪も溶かしているとしています※19。

草津町で湯を回す人の一年|合同入社式「来草歓迎式」と、住んで3年の節目

三つ目の柱は、湯を回す人の一年です。

町に住んで働く人のおよそ45%にあたる1,509人(2020年)と、会社の42%にあたる208社(2021年)が、宿泊・飲食サービスの仕事です※20。

移り住んで新しく宿を始める人にとっては、冒頭の「住んで3年」が一つの節目になります。町に住んで3年たった人が新しく湯を引く許可を受けるときの分担金は、そうでない人の3分の1です※1。よそから移り住む人は、この町では珍しくありません。18〜49歳の町民に聞くと、58%が町の外で生まれ、いまは草津で暮らしていると答えています※21。

その働き手を、草津では宿ごとの採用とは別に、町ぐるみでも迎えています。2026年4月22日、観光協会の人材育成の部会などによる第7回の草津温泉合同入社式「来草歓迎式」が開かれ、12の施設から47人が集まりました。この年は初めて「熱乃湯」を会場にし、新しく来た人たちは湯もみも体験しています※22。別々の宿や施設に入った人が、同じ日に、同じ湯をもんで町の新人になる。この式は、2024年の時点で、すでに5回を数えていました※23。

移り住む前に試せる住まいも、2026年度にできました。町は2024年に、町の建物を直して3か月ほどのお試し暮らしができる住まいを整えるとし、2026年度から移住体験住宅を始めています。前原ハイツの3DKの一室を、1か月3万円で、1か月から6か月まで借りられます。家具はそろっていて、光熱水費は自分で払い、観光のための利用はできません※24。2026年5月からは、草津温泉で食堂を営み、自身も移り住んだ移住コーディネーターが、住まいや仕事、暮らしの相談に乗っています※25。

湯を回す人の一年/2026年4月22日/47人。春の山を望む架空の木造浴場で、新しく来た働き手を表す小さな後ろ姿が一緒に湯もみを体験する場面。
図3 同じ湯をもんで、町の新人になる(※26)

4月に熱乃湯で湯をもんで町の新人になった人は、涼しい夏に客を迎え、雪の季節も同じ湯の町で働く。そんな一年を重ねていくことになりそうです。

湯や地熱の熱を、そのまま仕事にしている町もあります。北海道の森町は、地熱水や温泉熱をいかしてハウストマトを育て、熊本県の小国町は、温泉地熱で小国杉を乾かす施設を動かしています※27。

私の見立て|草津町は、湯を量って分け合う町

3つの柱を、モノサシに戻して並べます。宿には、湯船の広さで量った湯を、議会の議決を経て分けています。住む人に配るのは、地区の共同浴場と、源泉の熱で温めた水と、雪を溶かす熱。湯を回す人は、宿ごとの採用に加えて、町ぐるみの入社式でも迎えられます。熊本県の小国町が地熱の使い方を決まりに書いたように、この町も、湯の使い方を決まりに書いて守っています。

私の見立てはこうです。草津町は、日本一を名乗るほど湧く湯を、限りあるものとして量って分け合う町です。湯を分けるたびに議会の議決を経る決まりは、2025年の指針でもう一度示されました※8。湯畑の源泉にも、この先の申請に「余裕はほとんどない」と町は答えています※7。その湯を、湯船およそ3.6平方メートル、畳2枚ほどの広さぶんでも、議決を経て分けています。2026年7月の町議会だよりでも、湯を引く許可は、1件ずつ議会にかけられています※28。

湯を量って分け合う町/畳2枚ほどの広さ。小さな湯船と、広さの目安として乾いた床に並べた畳2枚、物差しと白紙の帳面を描いた場面。
図4 湯を引く許可は、1件ずつ議会へ(※28)

草津町を数字で見たい人へ|人口・仕事・冬・助成金の要点

項目 数字
人口 6,025人(2026年1月1日)※29
世帯 3,568世帯(同)※29
宿泊・飲食で働く人 約45%(2020年)※20
観光客 370万人(2023年度)※30
1月の最低気温 −7.8℃(平年値)※17

移住と住まいの助成・費用(2026年9月時点)

子育て・学びの要点

人口の推移と将来の見通しは草津町の人口ページに、暮らしのデータは草津町のページにまとめてあります。助成金の金額と条件は年度で変わるので、申請の前に町の現行ページで確かめてください。移住支援金の要綱は2026年4月、出産祝金のページは2022年3月の更新です。働く人の数字は2020年の国勢調査をもとにした町の集計で、気温と雪は町の観測点「草津」の1991〜2020年の平年値です。

出典リンク集

本文の※番号に対応する資料です。括弧内は資料の頁・年と、確認した日付です。1つの番号に資料が複数あるときは「 / 」で区切っています。

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